ティーチェは、エンブリオの存在というものを水の噂で耳にした。
ただ契約を結ぶだけのものではなく、もっと荒々しい種類の生き物なのだと。
けれど、それはティーチェにとっての常識の範囲だったので、驚くほどでも無かった。
周囲から無意識的に生命の搾取を行う魔神や、存在を認識するだけで意識を刈り取る存在を知っているからだ。
この娘にとっては、故郷にいる家族や仲間とさして変わりのない生き物。
彼女にとってのエンブリオの再認識は、そんな程度だった。
……だったのだが、少しだけ、寂しさを覚えてしまった。

ネクターがある時代だけを知っているエンブリオが、困惑するのだろう、と。
お互いにちょうど良い距離を保っていたに違いない間柄が、たった一つの花が原因で引き裂かれてしまう。
ティーチェのエンブリオは全て海の魔族に置き換えられた。

しかし、闇豹の体に宿っているエンブリオは、メルンテーゼにいるエンブリオそのものだ。




それから、闇豹が背中を預ける存在となった、あの黒いエンブリオ。


「どうなるかしら、です」







「どうなってしまうの、私たち」





どうしてしまおう。

木で作られた台に乗って、踊りながら歌っている女の子がいる
１曲歌い終わると、ちらほらいる観客に向かって話しかけ始めた