【Ｓｉｄｅ．ネム】
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できる限りネムの不自由をなくすため、首輪以外の戒めを与えなかった。　
首輪に鎖はついていない。屋敷の外に出る瞬間、音が鳴るだけの簡素な代物だ。　
　
ネムは犬や猫じゃない。外の人間に見つかれば、　
また同じような悲劇を経て、見世物として売り出されるだろう。　
……彼女を引き取った以上、それだけは、絶対に避けなければならない。　
兄上が医者の卵であり、俺やネムに協力的であったのは、何よりのさいわいだった。　
　
ネムは言葉を発さず、部屋の隅でじっとしていた。　
　
対面している間、ネムはずっと、沈んだような無表情を湛えていたけれど　
僅かに揺らぐ瞳は、何かに怯えているようにも見えた。　
俺ではなく、もっと遠くに存在する、巨大で、邪悪な、何かに。　
　
……。　
　
あの時、ネムの瞳に潜んでいた「何か」。　
その正体を知る機会は、思った以上にはやく訪れたが、　
それでも尚、手遅れだったのだろう。　
　
メルンテーゼに降る雪は、とても冷たい。　




【Ｓｉｄｅ．伯爵】
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・・・　・・・　・・・。

　　　　　　沈黙。
　　　　　　数瞬にも、数分にも感じる様な奇妙な間が空いてから金髪の女は溜息をついた。

　　　　　　「ごめんなさいね、街のチラシでちらっと見た程度だから…」
　　　　　　そういって苦笑を見せる。




　　　　　　一瞬でも張り詰めて居た空気は、
　　　　　　既に和やか　——　そう言って差し支えの無いほどに弛緩した空気に変わっていた。

　　　　　　傍から見れば知り合いが街中で出会い、挨拶を交わす。

　　　　　　側に眠る遺骸さえなければ、そう錯覚するほどの雰囲気。

　　　　　　ざくり。　と
　　　　　　振り子の様に大きな刃が垂直に薙がれ、首が捥がれる。

　　　　　　女は、万が一も無くなった遺体をザクザクと解らしながらこちらに笑みを向けた。

　　　　　　ややゆっくりと投げ渡されたのは級は低いものの、綺麗な宝石がついた指輪だった。

　　　　　　「この辺りなら少しは教えられると思うわ。」
　　　　　　ひたすらに殺人への意識もなく、彼女は死体を解体しては装飾品を漁っていく……。

じ、と見つめてくるネムを見上げる。それは意表を突かれたとでも言いたげに。

何とでもない。おねがいごとには喜んで。願うなら甘んじて。
にこやかな笑顔をむけた。