ユベールからの刺客、レイドリックを退けてから数日が経った。

ボクはリヴァランを呼び出して、例の北の小屋にいた。

そう言ってリヴァランは本棚の裏に隠してあった重そうな取っ手に手をかける。
すると部屋の隅の床板が重々しく動いて、地下室へ続く粗末な階段が現れた。

リヴァランは灯りをともし、地下へ降りていく。ボクもそれに続いた。


地下室にはたくさんの書物や資料、それに法具や祭器と思われるものがズラリと並んでいた。

なんだそりゃ。こいつ本当に長命を楽しみきってるよな・・・。
リヴァランは一見クールなタイプに見えるけど、シヤンハイルの四季のイベント全てを何だかんだでフルに遊んでた。

リヴァランは一番厳重にしてある宝箱のようなケースから一本の剣を取り出す。
かなり丁寧に梱包されていて、彼は丁寧に丁寧にそれを取り外していく。
剣というか、儀礼剣・・・祭器だな。刀身が細やかな彫刻が施された金属で出来た七支刀だ。中心に嵌ってるのは・・・樹脂だろうか。武器として使ったら簡単に割れてしまうだろう。

　

そう言って彼は周りに陳列してある、民芸品やおもちゃ、趣味の品々をそっと指で撫でる。

そう言ってリヴァランはボクに七支刀を渡してきた。
ボクは恐る恐るそれを受け取った。

よく見ると剣の束尻に小さな印が押してあった。
この印影は、ルイーザが拾ってきた、古代妖魔文字でガルディオの署名がしてあったあの印鑑のものだ。
そうか、あれは七支刀作製の契約儀式に使ったものだったのか。

続けてリヴァランはこのメリフリアス七支刀の使い方を教えてくれた。

使用可能な術式は『加速』『逆行』『停止』の三種類。一度使ったら効果は永続的なもので解除は出来ない。

決められた呪文を詠唱し、術をかけたい対象にこの剣を突き立てればOKらしい。突き立てても何故か怪我はしないそうだ。
そうか、自分だけじゃなくて他の人や物にも術をかけることが出来るのか。

こいつ意外とこういうとこ大雑把だな。ボクこういうのすっごい気になんだよ。

メリフリアス本流と六つの支流で計七つかな？と思ったけど、メリフリアス本流の水源、エティノスは
六つの水源のうち一つに含まれている。つまり本流含めて六つなんだよ。一個多い。気になる。

そういってリヴァランは自分の頭を指でさす。

いわく、本来彼の頭髪は金色だったらしい。
俺とお揃いになっちまってもイヤじゃないなら使うといいさと彼は笑って小屋を出ていった。








さて、正直拍子抜けするほどあっさりボクは短命の運命から解放されることになった。

ただ、これ一本しかないということはミストやカーラにはどう言ったらいいのか。
とはいえ、このリスクを彼女達に課すべきかというと何とも言えない。

ボクより遥かに残り時間がある彼女達は出来れば別の方法を探した方がいいだろうとは思うが・・・。

その夜。ボクは自室で七支刀をそっと胸に押し当てる。・・・怪我はしないってわかってても結構怖いなこれ。


これでボクはリスクはあっても短命の運命からは逃れられる。短命どころか半不老不死になってしまうが。
そうか、不老になるのか。もうこれ以上成長することも老いることもなくなってしまうんだな。


・・・そういえばボクの中に眠っている、本来のヘリヤはどうなるのだろう。
ボクが死ななくなるってことは、永遠にボクの魂にのしかかられたまま眠り続けるのか？

まだ見ぬ、いやボクが直接は会うことは永遠にかなわないであろう彼女は、本当ならどんな人生を送ることが出来たのだろう。

ええい。

ボクは大きく息を吸った後、刀を持った腕にグッと力を込めた。

散々己の名を言うておいて、けれど必要な通達だもの。
指を口元に充てて、僅かに首を傾ける。

自分じゃあるまいし、と心の中で呟き（PL:すみません。素で見間違えました！）

茶化すように言っていたが、表情を歪めたヘリヤの様子を見ると真剣な面持ちになり。