「スチュアート君、街に戻ってたみたいね。」


セリィおねえさんのはなをたよりに、スチュおにいさんをさがします。
そのあしどりは、どうやらまちにむかっているようです。
けれども——


「でも…　こう、ひとが多いと……」


まちはいっきがおわったせいなのでしょうか？
おおくのひとがいて、このなかからおにいさんをさがすのはとてもたいへんそうです。


「………。くしゅん！」


かわいらしいこえとともに、おねえさんがくしゃみをしました。
ふとみると、あまりおねえさんのかおいろがよくないようにみえます。
すべておわったとはいえ、むりがたたっているのかもしれません。


「ごめんなさい、ロク君。私の鼻だと、これ以上は追いかけられそうにないわ」


ざんねんですが、ここにきたのがわかっただけでもよかったとおもうべきでしょう。


「ただ、この街に居ることは間違いなさそうだから…　一緒に辺りを探してみましょう」


ほんとうは、わかれてさがすほうがはやいのかもしれません。
けれども、ぐあいのわるそうなおねえさんをひとりにするなんてもってのほか。
こくり、とうなずくと猫はおねえさんといっしょにあるきだしました。




「見つからないわね…」


そうなのです。
このまちにいるはずなのに、みつからないもどかしさ。
おねえさんもこまっているようです。


「ん〜☆　ねこくん、『魔力感知』ってできる？」


おねえさんのエンブリオ——きつねさんがたずねてきました。


「……？　どういうこと？」


「せっちゃん、すっちーに帯留を貸したままでしょ？　あれ、ねこくんから貰ったものだよね？
ねこくんが自分の魔力を感知できるなら、帯留の魔力を辿って見つけられるんじゃないかな〜？って思ったの♪」


そういえば、おねえさんがおびどめをつけていないことにいまさらながらきづきました。
あのときはいろいろありましたが、おねえさんはだいじにしてくれていたようです。
おねえさんのたすけになっていたようで、猫はちょっぴりうれしくなりました。



おねえさんが猫におれいをいいましたが、あのときたすけてもらったのはじぶんのほう。
むしろ、こちらからおれいをいいたいくらい。
——すこし、てれくさいけれど。


それはともかく、きつねさんのいっていたことができたなら、たしかにスチュおにいさんのもとにたどりつけるかもしれません。

やってみないてはないでしょう。

まりょくをさぐるように、かんかくをとぎすませて。
きょろきょろと、あたりをみまわします。


——これ——だろうか？
たぶん——こっち。

おぼろげなかんじをたよりに、猫はゆっくりとあるきはじめました。



しばらくして。


——！！このかんじ——きっとこのさきだ！！

だんだんと、はっきりとわかってきたまりょく。
猫はいてもたってもいられずにはしりだしました。
おねえさんもあとにつづきます。


「………！　スチュアート君！！」


どうやら、おねえさんもきづいたようです。
あのうしろすがた。
まちがえるはずもない。

いそいでかけよって、おにいさんのふくをつかみます。
…そのまま、きえてしまうのをおそれるように。

おにいさんはふくをつかまれて、びくり、とみをすくませました。

けれども、それだけ。
猫がなにをしても、おにいさんにはだんまりのまま。



「スチュアート君、此処に居たのね」



おちついたようすでおねえさんもこえをかけます。



「黙って居なくなるなんて…　どうしたの？　
一揆も無事に終わって 街もお祭り気分みたいだし、折角だから3人でお祝いしましょうよ」


それはとてもすてきなことだ、と猫はおもいました。
そのせいか、ほほがすこしゆるんでしまったほど。
けれども——


「君には言ったはずだろう。
ここに来た目的は革命に手を貸してそれが成されるのを見届けることで、それも済んだからもうこの世界に居る必要は無くなった。」



「あ……　うん」





おにいさんの、すげないへんじ。
おねえさんも、なにもいえなくなってしまいました。

くうきのおもさをひしひしとかんじていると、おにいさんがくちをひらきました。


「どうして居場所が判ったんだ？ 」



「それは……」





『まりょくをおってきたのです！
おにいさんがもっているおびどめは小生のまりょくがこめられているから。』


猫がそうつたえると、おにいさんはなにかにきづいたようににもつからおびどめをとりだしました。
そのままふりむいておねえさんのもとへいくと、あやまったのかなにかいいながらおねえさんにわたすと、そのままこちらをみもせずにあるきだし——



「スチュアート君…」





せっかくおいついたのに、これで？
——このままわかれる？
——そんなの…


おにいさんからとおざけられているようで、おねえさんのところまでなんとかあるいたあしはなまりのようにおもいけれど。




「ねぇ、スチュアート君……」


おにいさんをよびとめるおねえさん。
しかし、なにかをためらっているようで——


「もうしばらく、私達に付き合って貰えないかしら…？
強制契約を解除する方法を探す為に、メルンテーゼを回ろうと思ってるの」



「体調が…戻らないのよ。一向に。
ロク君との強制契約が解除されているか、確信が持てないの…」


がつんとあたまをなぐられたようなきもちでした。


——そんな…？

——おわったはずじゃ…？

——いまだに、じぶんがおねえさんをくるしめている…？


こちらをみるおねえさんのめはとてももうしわけなさそうで。

…そんなめでみないでほしい。
おねえさんにはわらっていてほしいのに。


「ごめんなさい、ロク君。貴方を責めてる訳じゃない。貴方が悪い訳じゃないわ…」




ぼうぜんとしていた猫をだきよせるおねえさん。
あぁ、ちがう、そんなかなしそうなえがおがみたいんじゃない。
そんなかおをさせたくない。
それなのに、そのげんいんがじぶんだなんて——！



「契約はそのうちベルフィがなんとかするだろうし、
　そうでなくともフォルシュを探せばどうにかできるだろうから、一緒に行く必要なんて無いだろう。」




そうこたえるおにいさんのこえは、どこまでもかたくて——

このまま、おにいさんのこころには、とどかないのでしょうか。






「メルンテーゼを離れるのは、やっぱり…　元の姿に戻る方法を探す為なの？」




ふりかえるおにいさんのめはあきらめをうつしていて。




「ロクから聞いたのか…。」



あぁ、おにいさんにまでこんなかおをさせて。

——いうべきではなかった？
——いいや、そんなことはないはず。

じぶんは、まちがえてばっかりだけれど。

でも、あのままおわかれするのだけはいけないって、はっきりといえる。


「まだメルンテーゼ全てを回った訳じゃないんでしょう？
もしかしたら、どこかに方法を知っている人や、そんな能力を持つエンブリオが居るかもしれないわ」


「目的は違うけれど…　一緒に探した方が、捗るんじゃないかしら？」



それだ、と猫はおもいました。
まだ、おにいさんにいっぱいいっぱいおはなししたい。
あのよるにおにいさんがむねのうちをつたえてくれたのに、じぶんはなにもいえていない。




『スチュおにいさん、小生からもおねがいするのです。
もうすこし、いっしょに——』


「訊いて回ってもそういう話は無かったから、他の世界で探す。
ノースロップにはロクが付いてるから僕が居なくても問題ないはずだ。
エンブリオの先生とやらも頼りになるんだろうし…。」


あぁ、やっぱりだめなのだろうか。

おにいさんはすこしにらみつけるようにきつねさんのほうをみたたま——おどろいたようにかたまりました。

いったい、なにが——？



「？！」




きつねさんの、すがた。
そのすがたが、ぼやけるように、うしろのけしきがすけてみえて——


「ん？　あ〜☆　もうそんな頃合か…」


それでもいつもとかわらないようすのきつねさん。
いったい、なにがどうなっているのか、さっぱりわかりません。

おねえさんもこんらんしたようすできつねさんをといただしていますが、かえってきたこたえは猫ではよくわかりません。

ただひとつわかったのは——きつねさんとはここでおわかれということ。


「ほい☆」


きつねさんが、おねえさんにわたしたそれはとてもみおぼえがあるもので——



こえもききとれなくなっていき、だんだんとすがたがきえて、ひかりのようになって、みえなくなって——
ひかりすらきえたあとには、このせかいにきつねさんがいたことをしめすものはなにひとつのこっていませんでした。


おねえさんのてにのこされた、ひとひらのネクターをのこして。

まだそんなにたっていないはずなのに、なぜかなつかしさをかんじてめをほそめながらほおばりました。

やるきまんまんのようです。