「御前の力は大したモンだよ。
　だがな、そんなめんどくせえ事をしなくてもただ一つの指摘をするだけでよかったのさ」

「この名が俺のモンじゃねえって事をな。」


情報屋の端くれみたいな事をしていたスラムチャイルドの私にそう言った北国のテロリストから、私は銃を教わった。
傷だらけの顔、片目に義眼を嵌め込み右手が義手の大柄な男だった。
最初に渡されたのは「S&W M642」というハンマーが銃身に内蔵された小柄のリボルバーで
あろう事か彼の手で安全装置が取り払われたものだった。
通常より重めの引鉄を引けば、ただそれだけで弾がでる。
そんな今考えるととんでもない代物だった。
まともに引けるようになるまで何度も弾を抜いて練習した。
引鉄が引けるようになると、今度はその銃の構え方を教わった。
その構えの形が体になじんできた頃に、初めて銃弾をつめて土嚢を撃った。
生まれてはじめての一撃で右手首を痛めたのを良く覚えている。
的に固めて撃てるようになってから、彼はその銃を分解して見せてくれた。
ばらばらに分けられたその繊細な部品達を、私は美しいと思った。
その部品達がまた元の通りに組み上がるその工程を美しいと思った。
分解と整備を、私は瞬く間に覚えた。

初めて人を撃ったのはそれから随分と経ってからだった。
酷く雨の降る夜、その時塒にしていた教会で暴漢に襲われたのだ。
元々護身用に渡されていた物だ。
銃を取って、指を引き絞った。

腹の辺りを狙ったつもりがその手は跳ね上がり、
弾は男の顎下に入り、その後頭部から飛び出した。
私が初めて人に向かって銃を向け、そして人を殺した日だった。


私は銃を握り締めたまま、雨の中に飛び出した。
指は固まり、引鉄を絞った状態のまま緩んではくれなかった。



走って、走って、走り続けて



そうして夜が明ける頃に漸く
彼はもうどこにも居ない事を思い出したのだった。
初めて銃を手にした日から、数年が経とうとしていた。