グレーテルは子供達の中でも一番幼いので、私と同室に寝ている。
先に寝かしつけるために、いつも通り本を読んであげていた。

昔の私は外に出る機会がなく、家の中に閉じこもっていた。
出れなかったわけではなく、単純に外に興味がなかったから・・・。
本を読むのが何よりも好きで、家の中にある沢山の本を朝から夜までずっと読んでいた。

そんな私を見て、お父様はある場所に連れていくことにした。

お母様は私を産んだ時に亡くなってしまい、私はずっと母親というものを知らなかった。
その分、お父様にはとても愛されていたと思う。
私もお父様はとても大好きだったので、外には興味がなかったけれど、お父様と一緒ならなんだって嬉しかった。


馬車で数時間。
木々が生い茂り、小川が流れ、空気の澄んでいる場所にひっそりと教会が立っていた。
そこには私と同い年くらいの子供達が沢山いて、どうしていいかわからず私はずっとお父様の後ろに隠れてしまっていた。

でも一人の男の子が私に

なんて、声を掛けてきてくれた。

でもお父様の後ろからは離れようとしなかった。
恥ずかしいのもあったのだけどもそれよりも・・・。

初めての出会いはそんな感じだったかな。

今は何故だか顔も名前も思い出せないけれど・・・。
唯一つ覚えているのは、大きくなったら騎士団に入りたいなんて言ってたっけ・・・。




それから毎日のようにお父様はその教会へ私を連れて行ってくれて、私もその男の子と遊ぶのを楽しみにしていた。

初めて知る外の世界。
初めて知る他人。

全てが新鮮だった。

他の子も沢山いたけれど、一番仲良く遊んだりしていたのはその男の子だった。



夏の季節に夜空に輝く花火を見て2人ですごくはしゃいでいたっけ。

そんな約束もしていた。




そして夏が過ぎ、ちょうど今頃の季節、子供達の間である噂が立っていた。


『森の奥に洞穴があって、そこにはお宝が眠っている。』


・・・なんて、子供らしい噂。

そんな根も葉もない噂を皆は馬鹿にしていたのだけれども、私は興味津々になってしまい

と、男の子を誘って行こうとした。
最初はあまり乗る気じゃなかった男の子だったが、だんだん私の興味が移ってしまったのか

こうして私達はお父様や大人達の目を盗んで、こっそりその洞穴に行ってしまったのだ。




教会から少し離れた薄暗い森の奥へと進むと、その洞穴はあった。

なんて、恐怖心より探究心が勝ってしまう子供らしい感情だ。


2人は教会から持ってきたランプに灯りをともし、奥に進んでいく。
途中、鍾乳石から垂れてきた水滴に2人して驚いて、「キャー」なんて言ったりしたっけ・・・。

どんどん進んでいくと、広い場所に着き、そこには途中にあった鍾乳石より大きなものが並んでいて、ランプの灯りが反射して、とても綺麗だった。

会話はそれっきり、2人は無言で鍾乳石をずっと眺めていた。本当に綺麗で、時間を忘れるくらいに・・・。



そろそろ暗くなる時間、もしかしたら大人達が心配していると思い。

と、言った瞬間。

そう言って男の子が私を突き飛ばしてきた。
その直後、ドゴッという大きな音と共に何かに視界が遮られてしまった。
あまりにも突然な出来事に私は目を閉じてしまっていたが、はっと気づき目を開けると既に遅かったのだ。



私の目の前には蛇のような魔物と、肩から血を流している男の子がいた。
魔物に気づき、私を庇ったのだ。

私は男の子の言葉に従うしかなく、夢中になって出口の方へ走り出した。
一刻も早く戻り、大人達に知らせて、助けてもらうために・・・。

必死に走っていると、出口の手前で人影を見つけた。
お父様と大人達が帰りの遅い私達を心配して、洞穴を捜索していたのだ。

私はお父様に泣きながらしがみつき

お父様はあまりにも動揺している私をみて、すぐさま察したのか奥へと走っていった。

『私も戻らないと』

そう思っていたのだけど、身体は動かなかった。
魔物の恐怖、男の子の安否・・・怖くて足の震えが止まらず、その場で泣きじゃくる事しかできなかった。

そんな私を、大人達と一緒に来ていたシスターがそっと抱きしめてくれて、「大丈夫、大丈夫ですよ。」って言ってくれた。


私が誘わなければ。
私がもっと周りを見ていれば。
あの男の子がこんな目に合わなかったのに。

ずっと私はシスターの胸の中で泣くしかなかった。




結局、お父様がすぐ駆けつけてくれたおかげで、男の子に大事はなかった。
けど、私達はお父様にすごく怒られてしまったっけ・・・。
もしかしたら初めて、お父様に叱られた事だと思う。

その事件が切欠でなのかわからないけども、私がその教会に連れて行ってもらうことはなくなってしまった。

　

そう言うや、

なんかヘンなところに火がついたらしい。

年端もいかぬあどけない顔の少年がたたたっ、とマリアにかけよってくる。
目の前まで来ると笑顔で挨拶をする。

　

何か楽しそうにエルフを批判してますが。

　

　

じーっとマリアの顔を見て

　

　

何故か急にテンションが上がった！

　

　

イメージ的には、でかい鍋を背負って訪ねる感じ。

透き通った空色の瞳でマリアの瞳を見つめ返して尋ね。
お祈りの仕方を教える為にと背後から回されたマリアの腕にどきんと胸が高鳴るのに戸惑いながらも、重ねられた両手を導かれるままに組み。

背後のマリアを軽く振り返って見上げて問い。

頭を撫でられたのには気持ち良さそうに目を細めて微笑んだ。

自分と今同行している面々とはどういう関係になるんだろうと首を傾げつつ考え。

そして獣人も翼人も好きという言葉には嬉しそうに。

少しはにかみながらもまっすぐにマリアを見上げて微笑んだ。

耳としっぽを軽くたれ。
続くマリアの言葉には再び耳をピンと立てて聞き入る。

マリアが悪い人としてあげた例を繰り返しつつ考え込み。

どことなく心当たりがあるような言い方をし。