話はさかのぼる——ほどでもないのだが、ほんの少しさかのぼる。
カッパに少々嫌な思い出があるティムラハは、
目を付けられたくなかったので、結果として、一度もカッパを攻撃しなかった。
そんな態度を、このカッパは何故か大層気に入ったらしい。
"だから"大事にしているキュウリを献上したい、と言った。
どうでもよかったのだが、くれるならもらおう——と答えたところ、ケツを出せ、と言われたのだ。
何の冗談だと思い聞き直した。冗談を言われた。
最近のカッパジョークは笑えないな、と思いつつ聞き直した。まだ冗談を言う。
はは、こやつめと笑いながら更に聞き直し——冒頭に至る。

≪トライター≫を背に回し、ティムラハは力の限り地団駄を踏んだ。
妖怪の精神構造は、とかく人間には理解しかねる部分が多い。
しかしそんな妖怪たちの近くで長年生活してきた。
倫理観や生態による差異は、納得は出来ずとも理解を示すことは出来る。
出来るつもりだった。


このカッパにだけは、理解を示したら駄目だ。


ティムラハは悟った。一刻も早くこのカッパから逃げねばならないと。しかし。

＼ぺかーん／

エンブリオがネクターを所持していることもあるのだ。ヨドが僅かながらも所持していたように。
合意を得ぬ強引な契約ではあったが、契約は結ばれてしまった。
一度結ばれた契約は、一方的に破棄することは出来ない。どんなに理不尽であろうとも。

ティムラハが頭を抱えて蹲る中、理解が追いつかず静かにパニックを起こしていたヨドは、
それをどこか遠い夢の中の出来事のように呆然と見ていた。

＞ゼノ

＞ティム

＞ヨド