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やはり何もない、はずだったいつもの場所に——

"彼"よりも長い知り合いがいた。



「ティアさん……関係ない話だけど」

「なあに？」

「この壁に書かれている文章……って」


知り合いは遺跡の壁を眺めつつ、口を開く。
壁一面には古びた文字がいくつも流れている。

私はとっくの昔に出来上がっている文章はよく知っている。


「"お伽噺"よ」

「そう……だけど、どんな話でしたっけ」

「"感情"をなくして怒られた話」

「…………結構はしょりましたね」

「思い出したでしょ？」

「……まぁ」


そんなやり取りで、相手は私に変わらないねという表情を見せる。
薄い表情から読み取るのはもう、慣れている。

そして、あんな質問を問いかけた理由もなんとなく、わかる。


「それにしたって……話が似ていて、
　結末が同じ"お伽噺"が各地にあるのも不思議よね」

「"禁断の恋"とか"神殺し"をしたとか……
　中身が違うぐらいだけど、結構多いよね」

「この世界の国々の世界観はとてつもなく違いすぎているのに
　"何故"、"これら"があるんでしょうね」

「…………なんでだろうね」

「もしかして……元々世界はこんなに
　バラバラな世界観じゃなかったのかもしれないわね」

「…………」


相手が無言になっても私は続ける。
相手は聞き手にまわることが多いなら、自動的に私も話し手にまわる。

だけど、今日だけは違う——


「貴方は……
　私よりも長く多く旅してきて、何か"持ってる"じゃない？」


「…………」


「ぜひ、教えて」





長い、長い、間。

いつもよりも長い間が開いたあと、相手はポツリとつぶやく。


「…………もしかしたら……
　
　『"お伽噺"じゃなくて、実際にあった歴史』

　……そんな気がするだけだよ」





「…………え？」


「あ、えっと…………ただ……」












「そっちじゃなくて、彼を助けられる方法を聞いたんだけど」

「話変わってたの！？」

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眉を下げたまま、困った様に後頭部を掻き、

戦闘を除いた会話、をしたのが久々だと思ってしまった。いや妻と日頃、会話をしているが身内以外の、他人と世間話というのは何というか、新鮮だ。