-----------ある研究者の日誌


雪哭きの山に住まうといわれている妖怪。「ユキヒメ」
数々の伝承が残されているが、どれも様々である。
紅き炎を道標に人を助ける。迷い込んだ人々を食らう、など・・・

こういった伝承が複数あることはよくある事。
だが、私が調べた内容によると、ある一つの法則があることに気付く。

それは、この伝承に書かれている炎の『色』である。
人々を助ける時の炎は赤、人々を殺める時は青く書かれていた。

思うに私はこう、推測する。
『ユキヒメ』は二人いるのではないかと。

紅き炎のユキヒメと、蒼き炎のユキヒメ。
だからこそ、伝承が極端に分かれていたのではないだろうか。
私は、その仮説を確かめるべく、研究、調査を続けた。

そして私は、一つの答えにたどり着いた。


---------------------------------------------------------

私は、雪哭きの山とはまるで別の土地に住む、
雪哭きの山に近づいてはならぬという掟がある一族がいる。
その者達によればあの山には『鬼』が棲むという。
我々は、あの鬼を恐れ、あの土地を離れたという伝承が残っているとも話を聞けた。そして、その一族の最長老である方との話によって私の仮説は間違っていたという『答え』にたどり着いた。


伝承にかかれていた名前。それは『柚鬼姫』と。
それは字は違えど、『ユキヒメ』であった。
それを見つけたとき私の仮説は合っていると確信した。
しかし、最長老の話は、それを崩してしまった。

『ユキヒメ』は人を助ける炎と山を護る炎を持っているということ。
それが、赤き炎と青き炎の実態であった。
最長老は見たのだという。紅き炎が蒼く変わり、山を我が土地にしようとした祖父を燃やし尽くしたと。
それ以来、あの蒼き炎を恐れ、この地にやってきたと。
そして一族はあの炎を『醜き鬼の姫』という名を、『柚鬼姫』と
呼ぶ様になったと。

私は大きなものを見つけてしまったようだ。
伝承にも『雪火女』と書かれず、『ユキヒメ』とか書かれていることが多い事にも、納得がつく。あの名は、二つの意味を持っていたのだ。紅き炎と、蒼き炎の意味を。

私は周囲をきょろきょろと見渡すと、その冷気の元が一人の少女であることに気が付いた。
　

笑いながら呟いた声は何の為に。何に向けて。

それでも偽り続けなければならない。

L i l i t h・・・・・

拘束を解除する。唇を虚に動かす。
かじゃ、ん…と腰に付けていた錠前が落ちる。
雪火女を見据えて偽は遠くより。陽炎のように体をブレさせて腕を落とす。

陽炎の様に蒼き炎が揺らめく。
彼女もまた『解いた』のだろうと。

熟しすぎた果実は地に落ちず、只大きさを増してきた。
その糧が年月だろうかはたまた想いであろうか。


これより拓かれるは妖怪の宴。
見るは月夜と二匹の妖（あやかし）

果して結末これ如何に。これより開幕に、ございます。

揺らめく炎は、蒼から紅に

私にたどり着けなかったモノを既に持っているのだから