——いつかの会話——

言葉について、お主はどう思う。

きょとんとするではない。
言葉が力になるだとか、言葉は思ったことの半分も伝えられないとか、そういう話じゃ。

言いたいことはもう今言ってしまったがの。
結論から先に入るのは論述の基本なのじゃ！

まず、ばーんと結論！
そこから具体性を持たせて、最後にもう一度結論！
これじゃ！

これなら物覚えの悪いお主にもわかりやすいじゃろう。
いや、お主は物覚えが悪いのではなくて察しが悪いのじゃな。
鈍感なのじゃ。

わらわが、おぬしは鈍感じゃと言ったことで、おぬしは、自分が鈍感なのだと知る。
あるいは、鈍感かもしれないと思うかもしれないし、鈍感ではないかもしれないと思うかもしれない。
お主がどう思うかに関わらず、わらわの言葉はおぬしに影響を与える。

太古のまじない。
始まりの魔法。
今風に言うとなんじゃ、ぷらしーぼとでも言うべきかの。

「力」の強い者が口にした言葉は、強い力を持つ。
「力」とは腕っ節の強さでなくてもいいし、常世界法則に干渉する魔力でなくてもいい。
国を治める長の持つ魅力、権力であってもいいのじゃ。
金も力じゃな。

なんじゃ、魔法とは、まじないとは、ずいぶん俗っぽいものじゃな。
神秘のかけらもないではないか。

また迷惑掛けちゃうかなと内心思いつつ。

　スッと掲げた杯の先に、空を渡る大鷲の姿を示して。
　まるでそなたのようじゃ、と笑って返した。

　ふと、狐の杯が宙に止まる。驚きに満ちた表情。彼女にしては珍しいほどに素の感情で。
　やがて口端に笑みが浮かぶ。堪えきれないといった印象で、

のろのろと顔を上げるクラガの腕から赤黒い焔が立ち上る。それは獣へと姿を変え、具現化した。