「あーるとーっ！」

元火の玉が研究室の扉を蹴破って入ってくる。
人の型を得て相棒の行動範囲が広がった分、集中して作業を出来る場所が減った。

「……ドアプレートの文字が見えなかったのか？　今は作業中だ」
「承知の上よ！　いつぞやの『まりょくゆーごー』とやらをやってみたくなってな！」
「だから、今は——」

反論するも、「言質は取ってあるんだぜー」と潰された。
そういえば、そんな事を言った記憶がある。

「仕方ないな……。準備するから、少し待ってろ」

引き出しから儀式用の短剣を取り出し、指先を薄く切る。
滲んだ血でフラムの頬に印を描いてから、今度はフラムの血で自分に印を描く。

「後は互いに接触しながら、詠唱すればいい筈なんだが……さて、どうなるか」

「接触しながら」という単語で一瞬フラムの顔が紅潮した気がする。
何を考えているかは今は気にしないとして、互いの手を握り、静かに言葉を紡ぐ。

『我等は共に歩みし者。我が力は汝が為に、汝の力は我が為に——』

互いに描いた印が淡く光を放つ。前段階としては、まだ問題はない。
その後も、言葉は紡がれる。

「……っ」

不意に、視界がぐらりと揺れる。続けて、燃えるような感覚。
この感覚は、相手が炎の力を持つフラムだからなのか。

そして、世界が暗転した——