仄暗い森の洋館の、鬱蒼とした中庭に、長いテーブルが置かれ、その周りに囲われた椅子に、いくつかの人影が見えます。
主賓と思わしき白い少女が、席と席の間を忙しく行き来しています。
手にしたポットから、各々のカップへとお茶を淹れて、茶菓子の入ったバスケットを廻します。

「お父さまったら、お茶を溢してはダメ。」

「兵長さんも、もっと落ち着いてお食べになって。」

「……メイド長も、一緒に来られたらよかったのに。」

いくつもの席の中、動いているのは白い少女ただ一人だけです。
それは、どこまでも異常な光景でした。

胸に矢を突き立てた伯爵を筆頭に、あちこちが欠落した兵士の屍体を継接ぎにしたような人形が、椅子の周りに所狭しと並べられています。
血で赤黒く染め上げられたテーブルクロスの上の、各々の席のカップの中には、濁り淀んだ泥水のような液体がなみなみと注がれています。
バスケットの中にうず高く積み上げられたそれが一体何なのか、想像したくもありません。

そして、中庭を望む渡り廊下の奥からその様子を覗う二人の人影がありました。



　+ + +



「……こんな仕事をしていながら、死体すら見たことがないのかね？」

「無いって言ったら嘘になるけど……、でも、こんな異様な状況は初めて見たわよ。」


手袋をした左手で口元を強く押さえながら、白いフードの少女が必死に嘔吐きを噛み殺していました。
そんな状況でも物音一つ立てない様に、少女が隠密行動に通じていることが覗えます。


「……今はまだ陽も高い。
　この状況では、打ち倒すことは難しくないだろうが、殺すことは出来ぬ。
　仮初めの身体をいくら破壊したところで、陽が落ちれば忽ちに元の姿を取り戻すだろう。」

「じゃあ、どうして私をここへ呼んだのかしら？
　あの気違いのお茶会でも見学したかった？ 何なら参加でもしてみる？」

「……アレを攻撃しろ。
　アレに魔力を探知されずに、射程外から一撃で行動不能にするような芸当は、私には不可能だ。」

「話が見えないわね。
　攻撃しても無駄だと言ったのはあなたでしょ？」

「ダメージを与えることは出来ないが、討伐への布石となることは間違いない。
　……凡人は大人しく言うことを聞いておけ。」


黒いフードの男の最後の一言に、あからさまにムッとした表情を見せますが、
それには応えずに傍らに置かれていた、身の丈程もある巨大な鋼鉄の武器、に据え付けられた筒眼鏡を覗き込みます。


「……撃つなら胸か腹にしておけ。」

「何故？ この距離なら確実に頭を飛ばせる。」

「あの身体は仮初めだ、人体の構造などという概念に捕らわれない方がいい。
　末端部分を狙うよりも、身体の中心部に大穴を開けたほうがダメージは大きいはずだ。」


その言葉に、僅かに狙う先をずらしながら、


「……それでも、人型の目標って撃ちにくいんだよなー……。」


白いフードの少女の小さな愚痴が、森中を劈くような轟音に掻き消されます。
衝撃が渡り廊下の窓のガラスをビリビリと鳴らし、放たれた弾丸は、白い怪物の鳩尾のあたりを貫きます。
一瞬、驚愕の表情を見せた怪物の身体が黒い霧状に消し飛び、
残された身体の一部も力無く地面に転がると、黒い粘液状に形を失ってゆきます。

その様子を見て、黒いフードの男が中庭へと降り立ち、あの狂気じみたお茶会の席へと近付くと、
どこからか取り出した、小さいながらも頑丈そうな、幾重にも封印の施された標本瓶に、
元がどの部位であったかも判らないような、黒い粘液の塊を詰めていきます。


「……さて、ここまでは簡単だが。
　問題は、夜のこれをどうするか……。」

そんな風に話しながら、移動したのはアムルの部屋の台所。
常時備えられているカレー鍋の横で、その匂いを吸ってくれている大きなパックンなフラワーが左右に揺れて挨拶します。

引き出しから小麦粉を取り出し、冷蔵室から卵とバター。
料理道具の並んでいる棚から、泡立て器とスプーン、ボールをいくつか取り出して。

次々と新しい調味料を机に足していきます。
ずらりと並べてから満足して。

しかし、これからが本番だと言わんばかりにミオさんに向き直ると、にっこり笑顔で聞いてきます。

アムル的に、ここがこだわるところな模様。


+++

くねくねとミオさんの髪の毛の先端が動くのを見て、ちょっとびっくりしているアムル。

ピコピコ、と、耳の横の触覚を動かして見せます。
でも、なにかを掴んだり自分から触ったりできるようなサイズではないです。

じーっとくねくねしてる触覚を見上げて。

ちょっと背伸びして、くねくねしてる触覚のさきっぽを指先でつつこうと。

ミオが首に巻いているナロータイそのものを見せればナナシは関心したように頷いてしげしげと眺める。

そう言いナナシが見せたのはムスッとした顔のオコジョ。
山で捕まって以来ずっと襟巻き代わりに使われているらしい。

畑の方ではミオが盛大にひっくり返りつつ大根を抜けばナナシは慌てて顔を覗き込み…

呆れた顔をしながらナナシは手を差し伸べる。
そしてミオの大根を見ると気を取り直したように笑顔を見せて

そういうと、ちなは自分の尻尾を一本引っ張る。するとあっさりそれはぷちんっと外れてしまう。
それを両手でにぎり霊力を込めていくといったん光球になったあと人型になっていく・・・
30秒ぐらいで出来たそれの外見は裸のちなそのものである。ただし尻尾は一本で右耳の魔法陣がない。

ぐいぐいと押しつけていく

けらけらと笑う。