◇ Intermission　→side:B



夕刻も疾うに過ぎ、宵闇の迫る街の中。
街外れの街燈もまばらな仄暗い通りを、一人の少女が歩いていました。
白いフードで表情は隠していましたが、まだ幼さの残る顔立ちに、背中まで伸びた淡い金髪。
微かに覗く双眸は、うさぎのように赫い色をしています。
手に提げた籠を気にしつつも、彼女は暗い通りを一人でゆっくり歩いています。



　+ + +



「先日もお話ししましたが、我々騎士団は今回の件で表立って動くことはできません。
　領主様が口を噤めと言えば、この有様ですよ。」

「あなたたちの立場は理解しているつもりよ。
　もっとも、街の秩序と治安を守る騎士様がこれとは、聞いて呆れるけれどね。」

「……耳が痛いですね。」


ここはグリムドールの騎士団の詰処、そのさらに奥。
鍵の掛かった本棚に、表紙にも鍵の掛けられた本や書類が整然と並べられ、
一箇所しかない狭い出入口では、抜き身の長剣を携えた二人の騎士が睨みを利かせています。
そんな厳重に守られた部屋の中で話していたのは、二人の少女。
一人は、亜麻色の髪に碧の隻眼の騎士、もう一人は、淡い金髪を背中まで伸ばした、赤い瞳のエルフ。

「……ですが、現状が看過できない忌々しき事態であることは事実。
　表立って動くことはできませんが、出来る限りの協力はしますよ。
　騎士としてではなく、我々個人として、ですが。
　今この本棚の資料を閲覧しているのも、私一人だけです……少なくとも、記録の上では。」

そう言いながら、ガチャンと音を立てながら置いたのは、錠の掛けられた書類の束と、
いくつ連なっているのか、数えるのも嫌になりそうなほどの鍵の束。
その中から、目当ての鍵をなんとか探し出し、書類を開きます。

「居なくなったのは、いずれも十代の初め頃の女の子。
　あなたなら、犯人を惹き付けることができるかもしれません。」

「それって、私に囮になれってこと？
　……無理に決まってるじゃない、私ももう、そんな子供って歳でもないし……、何よ、その顔は。」

そこまで言って、騎士の少女が、笑ってもいいのか、笑うべきところなのか、
なんとも微妙そうな顔をしていることに気付くのでした。



　+ + +



「こんばんは、お嬢さん。
　こんな暗い中、一人で歩いていては、危ないですよ……？」

街燈もまばらな暗い街道を歩いていた白いフードの少女に声をかけてきたのは、一人の女性でした。
白い眼帯を付けた女性でした。

少し迷った後、フードを脱いで、もう一度その下の姿を見せます。
そうして、二対と、三対の瞳でじっと見つめて。

すべてを言い終えると、もう一度、ミオさんの手を両手で握ります。

そう約束をしました。

◆

小さく唸って、頭をさすりながら、なんとか目を開き。

お祖母さま、と言っても、人間のお祖母様とはぜんぜん違うようです。
蜘蛛の子供なんて、蜘蛛の子を散らすように、大量に生まれるものですしね。

小さな声でつぶやかれたお願いを、とても良く聞こえる触覚で聞き取るアムル。
これは妙案と、さっそくその算段を考えるのでした。

ちょっと熱くなりすぎて、寝る前じゃなくてもいいだろうとかすっぽり抜けてるのでした。

◆

目を閉じて、自分の胸に手を当てて、教えてもらった言葉を思い出しているように。

時々、口にしている『お父さま』の記憶は、ミオさんのことを支えてくれているのだろうかと。
少しだけ不安になって、尋ねながら、その表情をじっと見ます。

もし自分のが美味しかったりしたら表情が変わってくれるかなーとかも思っていたり、
そんなかんじでおそるおそるながらも手首までを口の中に入れ、
舌を軽く握ってふにふにしてみる

と聞きながらぱかりと。

そしてすぐ閉める。

あまり物騒な話でも驚かないようだ

食べることにもあまり驚いてない　大丈夫か軍人

めっちゃ冷や汗

　

　

ため息混じりに、後ろを振り返る。

その言葉と同時に、ミハイユの体は無数の蝙蝠へと姿を変え、闇に消える。
残ったのは、ぐったりとした男と、一匹だけ逃げずに残っていた蝙蝠。
蝙蝠が、口を開く。