◇ Intermission　→side:B



「………。」

「すみません、笑うつもりはなかったんです。」

亜麻色の髪の隻眼の女騎士が、申し訳なさそうに、それでも笑いを噛み殺しながら言います。
彼女の向かいで椅子に座っていたのは、赫い瞳の長耳の少女。
数人の騎士達の手伝いを受けて、儀礼用のプレートアーマーを着付けているようですが……。

「どうせ、私は小さいですよ！」

どうやらサイズが全く合わないらしく、その様子はまるで鎧に着られているようです。
不格好なブリキ細工の玩具のようになりながらも、漸く着付けが終わったらしく、促されるままに立ち上がります。
鎧が重かったようで、少しよろけますが、立ち上がってしまえば姿勢は安定し、くるりと回ってみせます。

「いいじゃないですか、華麗に決まってますよ。エルフ騎士みたいで。」

「くっ殺せ……とでも言っとけばいいのかしら？」

「それは偏見です。」

「でも……、持った時は、こんなの絶対無理って思ったけど、
　着てみれば意外となんとかなるものね。」

「重さは全身に分散しますから。
　……でも、それをずっと着て、凱旋式で一日立っていたりすると、すごく疲れるんです。」

「……考えたくもないわ。」

「……さてと、そろそろ出発の時間ですね。」


窓から覗く東の空に、明るみが差します。
夜明けの空に響く軍馬の嘶き、蹄鉄を踏み鳴らし、石畳を転がる車輪の音。
五人の騎士に先導された幌馬車は、城壁を抜け、森の中を通る街道を進んでゆくのでした。


　+ + +


森の街道を、一台の幌馬車がのんびりと進んでいきます。
先導するのは、二人の白騎士と、三人の黒騎士。
馬車の荷台の中では、数人の下級騎士たちが、何やら話をしています。


「———その件については、緘口令が出ているため、詳しくは話せませんが。
　目的は、何らかの実験のようですね。」

「実験？」

「ここ数ヵ月の間に、各地の有力な錬金術師が、この南方地方に異動した形跡があります。
　そして彼らは、その直前に、何らかの勅書を受け取っていたようです。」

「待って、そんなことができる貴族って言ったら———」

「ええ、おそらくは。
　辺境伯の家では、以前からよくない噂も聞きますし。」

「……噂？」



騎士達と馬車は、森の街道をのんびりと進んでいきます。

軽い調子でへへへと笑う。
ミオが風呂についてよく知らなさそうなのを見ると…

そこまで言ったところで、メグは自分へと延びてきた華奢な手に気づきます。

大きな鎌を手に、宙に浮いている少女の姿を見て、ごくりと唾を飲み込みます。

そして、恐る恐るではありますが、そっと少女の方へ手を差し伸べてみました。