「どうしたんだろうねー？」


夜、闇に溶けるようにいなくなったミオは、朝になっても帰ってきませんでした。
元々、今の集まりは、王家側に対する敵愾心も、反乱軍に対する忠誠心も特に持ち合わせていない、
ただ流れのままに戦っているだけの、流れ者たちです。
流れ者同士、仲間意識のようなものは持ち合わせているようですが、互いの深い事情などはお互い知りません。
ふらりと居なくなったところで、その理由など、知る由もないのです。

「また、そのうち戻ってくるんじゃない？」


　+ + +


広い庭園の片隅に、そこだけ夜の闇を切り取って残したかのような、黒い少女がいます。
青白かった髪は、タールを被ったように黒く濡れ、ひび割れた白い肌からも、同じような黒い粘液が流れ出ています。
夜の間に身体を直せなかったのでしょうか、異形化した右腕だけでなく、
左足の先も、黒い粘液の凝り固まったような質感となっており、辛うじて足の形を保っているようです。
点々と黒い跡を残しながら、左足を引き摺りながら、何かを探して進んでいきます。

彼女の夜毎行う『食事』の数は、日を追うごとに増えていました。
魔力を増して、本来の力が戻る度に、必要な魔力の量も増えているのでしょう。

最初は、人と同じ食事で事足りた。
次に、現れる小さな魔物を捕食するようになった。
やがて、夜な夜な兵士を襲うようになり、
先日は、複数の人間を家ごと飲み込んだ。



———次は、何を食べるつもり？

彼女の視線の先に居たのは、鋏を持った小さな少女。

つんつん　と袖を引かれた感触にナナシが振り向くとそこには以前撒いたチラシを
持つ少女の姿があった。
チラシを見て湯屋を求めたお客人かな？と思うも、次ぐ言葉にああと頷く。

クレーはエンブリオを呼び出して、きれいな水で丹念に手を洗うと、ミオの左耳の部分を歯医者のように調べ始めました。

ちょっとだけだから、といいつつ、手で触るだけではなく、スプーンで舌をめくったり、ライトをあてて奥を覗いたりと時間をかけて調べていました。

いつのまにか当初の目的を忘れて、虫歯のチェックをしていたようです