〜Side X-13〜

最近、自分が何者なのかよく考える。
化け物になったり、人間と呼ばれたり。

ローバル。妖精やエンブリオを襲って生命力を喰らう害獣。


俺の腕は今、ローバルに食われていた。


迂闊だった。狩りの為に弓を引き絞り、集中していた所を狙われたのだ。
しかし…幼体が人を襲うなどという事は聞いたことが無い。

俺が振り解いている内に、俺を喰っていたローバルが溶け始めた。
……否、喰らっていたのは俺の方だったのだ。
溶けたローバルは俺の腕に吸い込まれるように消えてゆき、何事もなかったかのように俺の腕はそこに在った。

ナイフで切り裂いて中を確認する。
人間のソレと、寸分変わらぬものであった。

その傷口は一分と待たずに閉じた。





その日、俺は目にした。
エンブリオを喰らい尽くした黄金を。
共存する筈のモノを侵す、略奪者を。

金色の竜との戦いの中、突如現れたローバルの軍勢に分断される。

俺の体に刻まれる苦痛。

一つは、体内で何かが破裂しそうな感覚。
この溢れんばかりの力を発散しなければ、肉体が持たない。

もう一つは俺の体を蝕む、ローバルと交じり合った何かによるもの。
体が上書きされていくのを感じる。首から上は守らなければ。

首には例の赤い布を巻く。すると、首から下の時点で侵食は止まった。
駄目元で試してみたが、上手くいったようだ。

幼体は握って焼き殺し、その他は叩き殺す。
ただそれだけを繰り返した。

冗談のような光景が、そこには広がっていた。
夥しい死屍の数々。元の世界の戦いの中でさえ、見ることのなかった光景。
死臭は無い。腐臭は無い。けれども眼前に広がる数多の死は、少年の心を揺さぶるには十分過ぎて。
吐瀉物が食道をせり上がってくる。そのまま耐え切れず、少年は背後を向いて戻してしまった。

一瞬、素のままの表情が。
御馳走に目を輝かせる子供のような顔が、一瞬だけ顔を覗かせる。

が、

すぐに、元の内気な少女の仮面を被り直す。

自分が何を考えているかは、すでに彼には気づかれているし、
当然自分が何を期待していたかも、それが叶って今自分がどれほど胸を高鳴らせているかも、気づかれているだろう。
けれど、それでも、ありのままの情欲を剥き出しにしてしまうのは、はしたないことだ。
それに慣れてしまうと、けだものから人間へ戻れなくなる。

彼がどんな相手なのか、全く得体がしれないのに。
それでも心の中からは熱い衝動がマグマのように溢れ出す。

彼の言動の節々に、気になる要素がないわけではない。当然だ。
けれど、今の状況で、それを気に留める余裕もなければ、
その話題で流れを打ち切るようなことも彼女には出来なかった。

体中が震えているが、自分でもなぜ震えているのかは分からない。
それは緊張ゆえか、羞恥ゆえか、期待ゆえか、本能ゆえか、焦燥ゆえか、ただの生理反応か、それとも全て？

相手の気を削がないように、敏感に顔色を読みながら、慎重に次の言葉を紡ぐ。

彼女は、こんな身体でも、人並みに羞恥心を持ちあわせていた。

[CAUTION]