いきなりの登場をしたメイドに、当然ながら屋敷の主人は訝しむような目を向けた。
この火事で使用人達は残らず焼け死ぬか逃げ出した筈である。
それが屋敷に残っているとは、不思議な話で済む筈もない。

「……いや」

一つの可能性に思い当たった貴族は、憎憎しげにメイドを睨んだ。
賢者の石を納めた部屋には、結界が敷いてあった。
如何に結界が物理的手段に弱かろうと、そもそも吸血鬼であるレーネフィアが近寄れる道理はない。
ならば屋敷の中に内通者がいたのだろう。
目の前の小娘は、理由はわからぬがレーネフィアと通じてこの屋敷を爆破した下手人に違いない。
何故ここに現れたかはわからないが、大方屋敷の中でレーネフィアと落ち合う手筈だったか。

「迂闊だったな。貴様の頼りにしていた女はすでに死んだぞ？」

言いながら剣を構え直す。
このメイドを殺し、賢者の石を使い血を啜ろう。
吸血鬼としての初めての食事には丁度いい。

メイドは剣を向けられているというのに、身動ぎもしなかった。
いや、すでに恐怖で動けないのに違いない。
いい気味だ——暗い歓喜に浸りながら、貴族は剣を振り上げ、



赤い、紅い、血が飛び散った。
鮮血が少女の胸から吹き出す。
その光景に、にやりと——“貴族”は笑った。