【0】
長い石畳の廊下の先。
そこに、最初の壁が立ち塞がっていた。

【1】
時間を少し遡る。
レーネ、東、ミラルカの三人は兵舎を進行していた。
「くくッ。人っ子一人いないじゃァないか」
「……そうですね。今まで道を塞いでいた、魔物やエンブリオの姿さえ見えません」
東の台詞に、ミラルカが答える。
普段兵士が隊列を組んで行進するのだろう廊下は、静まり返っている。
「諦めて放棄した……、という事だったら楽なんですけど」
「それはないだろうなァ」
「それはないでしょうね」
東とレーネの言葉が重なる。
「それは……、何故？」
ミラルカの問い。
「プライドの問題だな」
「プライドの問題ですわね」
異口同音。
「……プライド？」
「そうだ。兵士としては、侵入者と戦いもせず逃げたなんてプライドが許さないし——」
「——彼等のプライドとしては、誰かに倒される事などあってはならない」
得心したようにミラルカ。「……なるほど。つまり、彼等の全力を以て侵入者を迎え撃つ準備をしている、と」
溜息。
「……で、なんでそんなわかっている罠に飛び込むんですか？」
「——ハ。聞かれなきゃわからないか？」
重ねて溜息。
「……つまり」
「そうだなァ。つまり、」
「——プライドの問題ですわ」


【2】
「ラケルト隊長！！　あれはもしやッ！！？」
隊列を組んだ兵士達が、隊長に声をかける。
「おいおいおい……とんでもねぇなぁ一揆軍って。　オモテの案内見たぁ？？」
眼帯を付けた「ラケルト隊長」が、呆れた顔でこちらを向く。
「ここ兵舎、兵舎なんだよ。　どうして特攻してくるかねぇ……」
ダルそうに斜め上を向く。「はッ。 兵舎にしちゃァ、数が少ないと思うがなァ？」
「そうだよ、そこだよ。　馬鹿なのかねお前らは、大勢で押し掛けてさぁ、兵士を余所にも置かなきゃならなくなって大変だっつの。　まぁ言っても分かんねぇか、わかんねぇよなぁ……」
東の軽口に答えて、頭をポリポリと掻く。
「わっかんねぇんじゃ、しょうがねぇよなぁ……。　俺だってさ、これ終わったら応援に行かなきゃならねぇからなぁ……。　俺、兵士だからなぁ」
ニヤリと笑い、両手に小剣を構える。
「あら？　大変ならもう応援に行かなくて済むようにして差し上げますわよ？」
「ははっ。　……楽しませてくれよ」

激突。

自分は恐らく、頼られてはいないだろうから。
そう言ってもらえる光霊が、少し羨ましくもあった。

そう言いながらくすり、と笑みを浮かべ

だいぶ緊張が取れてきているようだ。

澄ました顔でもっともらしいことを言っているが、額に汗が浮かんでいる。

（ばさっ・・・・）

一礼に対し返すこともせず、静かにその所作を見守る。
レーネが言葉を止めて疑問を発せば、フィンもまた僅かに首を傾げて。

ア華ネはしばらく妄想に浸っていたが、はっと気づいてレーネに向き直った。