「ギュオオオオアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァァァァッ！！！」

巨大な帝王イカが倒れ、ピクリとも動かなくなる。

「・・・ふぅ、スッキリしたスッキリした！」

金髪の少女がこちらを振り向く。

「まぁそっちにも礼を言っておこう。小童にしては良い良い」

自分より年下に見える少女に小童扱いされるのも少々癪に障る所もあるが、見た目と年齢が比例しないという事はよくある。
溜息を一つ吐き、少女に視線を移すと、巨大な帝王イカを足蹴にしている。

「しかし久々に目覚めてみれば、あたし様のエンブリオがことごとく離れておる・・・こいつもパラダイスとかいう新王の仕業か？さっさと力を取り戻して世界ごとブッコかの。・・・悪戯にはお仕置きが必要じゃ」

帝王イカを倒して取りあえず満足したのか、邪悪な笑みを浮かべ、小川の先に続いている草原の先へとベルフィは去っていった。

「やれやれだな」

荷物を拾って先に進もうと、後ろから先ほどと同じ耳障りな声が響く。

「ギュオオオオアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァァァァッ！！！」

「まさかもう一匹いるとはな、予想外だ」

担ぎかけた荷物を再び放り投げ、再び戦闘態勢を取る。

「私の邪魔をしようと言うのですか？今の私は少々気が立ってますよ。悪い事は言いませんから、雑魚は雑魚らしく、大人しく道を開けなさい」

「ギュオオオオアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァァァァッ！！！」

茂みから現れたのは一匹の白猫。
先ほど罵声を浴びせたのもこの白猫だろうか等と考えていると、そうだと言わんばかりに二匹目の帝王イカが白猫に襲い掛かる。
一撃目を白猫が面倒臭そうに避け、後ろに大きく跳躍する。
白猫の前に強大な魔力の塊が具現化すると、襲ってきた帝王イカを包み込むように放射され、後には様変わりした風景だけが残った。

「見た所、人間みたいですが、貴方も私の邪魔をするようでしたら容赦しませんよ。そんな所に突っ立ってるって事は、今のを見ていたという事でしょう。愚かな選択をするかどうか、選びなさい、人間」

白猫が自分の前に立ち、言葉を投げかける。
決して本気ではなかったとはいえ、それなりに時間の掛かった相手を、同じように力をセーブしている相手が一撃で葬ったのだ。
力の差は歴然である。
死を覚悟に闘うか、命惜しさに降伏するか、答えなど、答えるまでもなかった。

興味が湧いた品も無いわけではないが……好奇心を抑えるだけの力と術をすでに会得しているようだった。

ラゼンシアの解説にそんな莫迦な、と表情は物語っている。

できればその光景を直に目にしてみたいものだが、あいにくここも主は不在のようで。

花壇を見渡すが、イリスにはどれがマンドラゴラかは判らない。
本で読んだといっても、彼女の世界でマンドラゴラは空想の世界の存在なのだ。
むやみに花壇の花に触れようとも思わないようで、佇んでいる。

声をかけないと暫くの間ここで佇んで長居しそうだ。