主らしくない理由ではあったが、そう、いつものように買い物籠を片手に出かけていった。

…のが、約２時間前。

主が自分たちを置いて出かけること事は珍しいことではない。

知人と話が盛り上がっているのかもしれないし、不意打ちの特売に遭遇したのかもしれない。

どこかで茶でもしばいているという可能性もある。

だが、いつに無く胸騒ぎがおさまらないのである。

１時間ほど前から、辺りをそわそわと忙しなく行き来している小姑竜が、何度目かのため息をつく。

彼？だけが不安を感じているのであれば、まだいつも通りと言えたかも知れない。

だが、外でスレイプニル・ヴィーエンが苛立たしげに蹄を鳴らすどころか、

ストレスなどと言う概念すらも存在しなさそうなケットシー・レープハルトまでもが、

じっと外を見たまま動かないのである。

今日はランプシェードの一部になっていたが、思わず身震いしてしまう。

距離も分からないほどにおぼろげだが、忘れようも無い、黒い、おぞましい気配。

否、自身を喰らいつくしたアレよりも、さらに濃く、鋭い何か。

それが徐々にではあるが、大きくなってゆくのが分かる。

主は、それを追うために出て行ったのであろうか。

いや、きっと行ったのだろう。

骸の気配に気付かぬ主ではない。

自分を食った骸を察知した際も、わざわざ理由を偽って、独りで追ってきたと聞く。

…主が異世界の制約に縛られて尚、桁外れの力を持っているのは知っている。

この世界への過干渉を防ぐため、わざわざ我々とエンブリオ契約を結び、弱い力を手に入れるほどに。

主に救われて以来、何度か骸討伐に同行したことはあったが、

今回、我々を置いていったと言うことは、それほどの相手、と言うことなのだろうか。

先日、主の知人が、骸に似た特性を持つ紫の蛇に襲われたと聞いた。

一揆の前線で戦っている冒険者が、深手を負わされるほどの、化け物…。

負けることは無いだろう。

世界の盾を自称していたのだから。

だが、勝つとなると、話は別なのではなかろうか。

小竜の憂う視線の先、窓の向こうには、暗雲が立ち込め始めていた。

内でも外でも他人の力を戦争に使ったのなら、とんでもないことになるのは簡単に推測できる。
そのために危険性を教えることも必要となるが……

雪乃「…この快適な涼しさは…もしかして…」

*何かを発見して嬉しそうだ*

暑さで声も出ないらしい。