かち　かち

固い物をぶつける音が、規則的に響く。

ぶち　ぐちゅ

次第にその音は次の音へと移り変わる。
こちらもきっちりと定められた回数をこなすが、粘ついた音が鼓膜を響かせる。
規則的であることはひとつの美だ。
だがここでそれを伴い生み出されるのは醜悪と死しかない。
繰り返し、繰り返しそれは、その作業を行う。
口に運んだ肉を羅列した歯で磨り潰し。
口許から顎に伝う血の汁を肉厚の舌で舐め拭い。

かはぁ　

掠れた咳に近い声。
それは喉元に絡み付いてるはずである、粘ついたそれで潤んだとは思えぬほどの、乾いた音だった。
しかし、それは満足さを含んだものであった。
満足であると同時に、どこか物足りなさを感じさせる。

（足りない足りない）

まるでそう訴える様に、大人が男2人、腕を回して届く程ある太い脚を持ち上げ、すぐ傍にある残骸を踏み潰した。
その姿は、まるで不貞腐れた子どもが駄々を捏ねる姿を彷彿とさせる。
その残骸は上から押しかかる力に軋み、一瞬、地面へと沈み込んだ後、一際大きな破裂音を出した後、呆気なく周囲へ血と肉を撒き散らせた。
既に変色していた地面が、一層赤黒く染まっていく。

(——————)

それはそれが急速に接近しているのを感じた。
ぐりんっ、と残骸を貪っていた身体を持ち上げ、心なしか身が震えている。
それに嗅覚というものが存在してるのかも怪しいが、それは確かにその匂いを識った。
人間に喩えるなら鼻腔から天辺へと衝動が突き抜けたと言うべきか。脳髄から血管へと、一つ一つの血脈が沸騰したマグマとなって暴れ狂う。
その衝動をそれは知らない。だが原初の記憶は知っている。

××××のものだと。

ねっとりと輝く目を動かし、ギラギラと濁った眼を光らせたそれは己の興奮した気持ちを諌める。
今だ空腹は満たされない。
更に増す耐えきれぬ飢餓に心なしか、それの目が細まりがちがちと鈍色の牙が小さく蠢き、石壁のホールにその音が反響していき音の連鎖が広がっていた。

己の放つ伴奏に気が高まり、暴れる内情を抑えるがごとく、それの身体の節々が、ボコリッ、ボコリッと大きく波打つ。
全身が総毛立つ程の、感覚が狂いそうになる生贄が現れた時。
制御不能まで昇り詰めた激情を乗せ、それは強烈な一撃をその男へと叩き詰めた。

雪乃「…この快適な涼しさは…もしかして…」

*何かを発見して嬉しそうだ*

暑さで声も出ないらしい。