メルンテーゼに来てから妙な人違いが増えた。

アーシェもそうであったし、
勤勉な同僚から逃げてきたと言う青年もそうだ。
（しかし彼はセルフォリーフで出会った友人と
瓜二つの上に同姓同名であるから、間違えない方がおかしい）

こうなってくると文箭から返って来た手紙でさえ
どこか不確かなものに見えてくる。

他の分割世界どころか、自らの故郷にさえ帰るのが至難であると言うのに、
戻る事も無いうつくしい過去に縋りついている様で、
卯の花腐しは少し参ってしまった。



ふと、アーシェがくれた黒い花を連想した。

あれはどこか、
春、待ちわびた雪解けの中で摘んだ、
冷たくやわらかい、やさしい味がしたように思う。

…美しくも決して手の届かぬ、過去のように。

小さな箱の様な機械を掌に乗せて見せる

治すか？と聞かれると唸ったりもじもじしたりして
大分悩んだ末に、どぎまぎしながらそろそろと近づいてくる。

概念武装に話が及ぶと、再び言葉に詰まり唸ったり
もどかしそうに口を開きかけ、また閉じる。それを繰り返し

自分の説明が会っているかどうかイマイチ自信が無いようで
しきりに首をひねっている。

卯の花腐しに頭を撫でられた猫のぬいぐるみは
おもちゃみたいな鳴き声を一つ発してアルファに襟首を掴まれた。
割り開いた縫い目を丹念に調べたアルファが腰のポーチに手を伸ばし
針と糸を取り出すとぬいぐるみを器用に修繕していく。