「ふふ、ここの水。中々良いわね」

彼女がバスタブの縁に乗せていた腕で更に湯を掬うように動かす。

「近くにある海の水をろ過してるんですって。だから普通の水と違って、とろみがあるのね」

あぁ、そうなのか。通りでお風呂に使った瞬間の感触が何時もと違うと思った。
バスタブの中に浮かべられたバラの花びらと相まって、今日は彼女の気分が良い。目元を弓なりにして笑うと、何時もの笑顔より少し幼く見える。やっぱりルーチェはお母さん似だと思う。
それを義兄と義弟に話したら、片方は笑みを浮かべ、片方は無表情という対照的な顔をされた。
この瞬間は、いつもの綺麗な彼女とはまた別の一面が見れて、胸の辺りがきゅっと押さえられる。
苦しいようなもどかしい、切ない感情は彼女が初めて教えてくれた。
僕は彼女に出会った時から、この時の日々まで様々なことを教えられた。
それは今もだけど、本当に感謝しきれない。
ルーチェのことだからこのお湯の効能を予め知っていたんだろう。嬉しそうに手で花びらごと湯を掬い、花びらの匂いを楽しんでいる。

「そういえばカーフェイ。貴方さっきから何を呟いてるの？」

「素数だよルーチェ」

……あ、何だか頭がぼーっとしてきた。

＞アティニトさん

平然と死んだ目をしているから、そう見えるのかもしれない。

ずしゃあぁぁと動かなくなったトカゲを軽くつっつく。
つんつん、つんつん。