予め送っておいた荷物を転送室から持って来た後、予備のパソコンに電源を入れて辺りを見回す。
自室を元に作っておいた空間なので、然程違和感は無い物の、全く使っていないベッドはちょっと寝心地が違うかもなぁ……
とか、そんな割とどうでも良いような事をぼんやりと考える。

暫くの間、元の世界といつでも通信出来るように…と、
夫にモニターとして協力して貰いながら、簡易的なチャットシステムを構築し終えた後、天井を仰ぐ。

そうふと思い立って、そのままテキストデータを打ち込み始める。


……誰の為でも無い、私と、私の弟子の為の。

本来なら我が弟子にならざる者だった彼の、『本来の物語』を。

今はもう、発売から百年以上が経過し、『幻』とされてしまった『過去のゲームの物語』を、
自らの手で変えてしまった私のソフトの本来の物語を、キチンと覚えていられるように…。


……私が変えてしまったのは一本のソフトだけで、そのゲーム全てを変えてしまった訳では無いけれど。
それでも、私が持っていたあのソフトは、決められていた物語すら始められず、メーカーのロゴしか出さなくなっていた。

そのソフトは御舟の手で叩っ斬られた事によって解放されたけど、それがあの世界に残っていたそのゲーム最後のソフトだったから。


……そのゲームが存在していた事を、その名前を知る者も、既に少なくなってきている。

ましてや、そのゲームの内容を覚えている者がどれだけ居るかも、定かでは無い。

……恐らく。 あの世界から抜け出たとは言え、存在の元となったゲームの存在が、完全に無くなってしまったら、あの子はどうなる？

もし、人々から完全に忘れ去られてしまったら、あの子は消滅してしまうのではないか……そう思うのだ。



———　ならば、せめて私が死ぬその時までは。 私が覚え続け、あの子と共に……　———



……それが、あの子と、あの世界に対する贖罪であり、感謝の意を示す方法であると信じて。


私は、あの子の本来の物語を、あのゲームの話を、此処に綴ろう。

忘れぬ為に、今の内に全てを思い出す為に……。

そう言うと、設計図を灰に還したカヅチに一礼をする。

その後、チハヤの言葉に予想外の反応を示したミフネに驚いたような返答をする。

ミフネの仕草や、彼の心内に浮かんだ「手段」よりも気になったことがあるようで。
チハヤはそばに立つカヅチに近付いて耳打ちする。

世界移動や寿命の違いの定めなど、スケールの大きな話から一転して下世話な内緒話。
なんだかんだで歳相応には少女なのだろう。

ハサミを鳴らしている

なぜかハサミを鳴らしている

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
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　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
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