(※今回の日記も本編とはあまり関係ありません。
　 前回の続きですので、
　 前回分の日記を読まないと分からない部分もあるかもしれません。)

魅月はアルネスに返してもらった本を手に取りページをめくる。
一見すれば何の変哲もない童話集。
ただ違っているのはどの話にも魔女が出てきて、
物語の解決へのキーパーソンになっている事。
その魔女は魔女と称されているにも関わらず、
物語の中で魔法が使えないといったり、
魔力が無い事が発覚したりするが、
まさに魔法としか言いようの無い力を振るう事が綴られている。
そして、
その全てにおいて魔女は一人の人間をさす。
そう。
今本を読んでいる魅月の事を。
これは童話ではあるが、
まさしくその童話が綴られた世界において、
実際に起きた出来事だ。
あまりにも嘘くさい話なので、
童話として売り出され、
そこそこ売れている。
そして、
彼女と出会いその物語に関わった人物は誰であれ知っている。
この物語が事実であることを。
だが、
誰しもそれが事実であるとは語らない。
関わった人達は皆、
事実であるかとの問いにこう答える。
ただ、その話のモデルになっただけだ、と。
そう答える理由は様々だが、
一番の理由としては、
魅月自体がそう望まないと考えられる文が後書きにのっていたからだ。
後書きにはこうある。
この物語はとある人物から聞いた話を元に作られたもので、
話をしてくれた人物はこう語った。
楽しんでくれたなら何より、
楽しんでもらえたならこの話もきっと救われるわ。
魔女が一体誰なのか、
魔女は本当にそんな事を成し遂げたのか、
それは誰にも分からないし、
分かっていたとしても、
物語はめでたしめでたしで終わって、
語り継がれて、
ああだこうだと夢想する事こそが一番良い形なのだと思う。
と。
——物語を語ったとある人物が魔女本人だという事は想像に固くない。
されば、
それこそが魔女たる彼女の望みなのだと察するには十分余りある。
だからこそ、
皆は口をつぐみ、
真実と語らずはぐらかす。
——無論、魔女へと憤りをあらわすものもいる。
だが、
その者たちが口をつぐむのは、
それを真実だと知られては不味いからというものだ。
だからこそ、
この物語達は童話として語り継がれていく。
後の世に、
表現を変え、
魔女が聖女へと変わり、
別の物語へと形を変えながら。
子供達が読むのに相応しい形になるように。
「数百、数千年後にもこの本はあるのかしらね。
　だとしたらどう変わっているのか読んで見たくはあるわ。」
その事を考えてだろう。
魅月はクスリと笑ってそうひとりごちる。
そして、
瞳を閉じて思い出す。
この童話の始まりの物語を。

——異世界同士には認識できない壁がある。
その壁が薄い世界には用意に飛べるが、
その壁が分厚い世界に飛ぶ事は難しい。
とある異世界を偶然発見したが、
なんどやってもそちらの世界に行く事が出来なかった理由が、
この壁である事が分かったのは後の事。
何度か試行し、
諦めようとしたその時、
その分厚い壁で遮られた世界へと飛ぶ事が出来た。
理由に関しては様々あるだろうが、
こちらが手を伸ばし、
向こうの世界にいた神が願いを聞き届け、
その手をとって引っ張り込んだというが最大要因である事は間違いない。
もっとも、この要因について知ったのは、
こちらの世界を楽しんで帰る時にその犯人である神と出会ったからなのだが。
さておき、そんな事情で私が飛ばされてみると、
そこにはいかにも物語の王様といった感じの人がいた。
「——何者だ。」
そして厳かな声で私に向かってその人はいった。
周囲を見渡すといかにもといった厳かで煌びやかな崇拝所。
王様の後ろに女神像らしきものがある所からすると、
あれが神様の像といった所だろうか。
まさに、神の使徒が現れた感じなのでしょうけど、
神々しさもなければ、
私は決してそんな善良な存在でもない。
何者だというのも頷ける。
私はクスリとした笑いを浮かべたまま、
その王様らしき人に告げる。
「ここと異なる世界から呼ばれた存在といった所かしらね。
　あなたの願いと、
　神様の力が働いた可能性はあるけれど、
　私は少なくとも神の使徒などという存在ではないわ。
　そんな優しい存在じゃないのは私自身が良く知っているもの。
　まぁ、細かい事は良いのよ。
　詳しい事情なんて知らないし。
　——そうね。
　この世界は面白そうだし、
　私の願うものを報奨として寄越すなら、
　貴方の悩みをかなえてあげてもいいわ。
　流石に無から有を生み出す事は出来ないけど、
　それ以外の願いなら大体はかなえてあげられると思うわ。
　どうかしら？」
その破格ともいえるような救いの言葉を。
優しい言葉には裏がある。
もし、
この願いに飛びつくようならむしれるだけむしり、
その願いがろくでもない事なら後悔させてやるつもりだったが、
流石は王か。
静かに首を振りこう言い返してきた。
「——
　貴女の事は聞いても分からない、
　ただこの世界の人間ではない事までは理解した。
　だが、
　貴女が何者であれ、
　神の使徒ではないというのなら尚更に……
　その対価がなんであるか明示していただかないと、
　おいそれと頼る事は出来ない。
　確かに余は困っている。
　——悪しく力を持つ魔女が、
　我が物顔に国に害を及ぼし、
　国としても立てる手立てはない。
　幸いな事に魔女の被害が少ない事に胸をなでおろし続け、
　その結果、
　大きな不幸が訪れた。
　貴女ならばその不幸を取り除く事が出来るのかもしれん。
　それだけの力を持っているのかもしれん。
　だが、だが、それでも……
　余は王だ。
　王たるもの、
　いくら不甲斐なくとも、
　国を、民を……
　不幸に陥れる提案には頷く事は出来ん。
　断った事が原因で国が滅びるというなら、
　余の不徳であり、
　天命。
　仕方のない事だ。
　だが、もし、
　その提案を受け入れた事で滅びるとすれば……
　余は義務を怠った事となる。
　だからこそ、聞こう。
　……貴女への対価の詳細を。」
思ったよりも真っ当な返答がかえってくる。
成る程。
この人物は思ったよりも悪い人物ではないらしい。
国ですら対処できないほど強大な力をもつ魔女。
その存在がなければ、
普通に平穏無事に過ごせていたのだろう。
故に、
悩みの種を解決する方法は、
悪しき魔女を打破ないし、
撃退する事になるだろうか。
普通に単純な戦闘力だけを考えるのであれば、
そんな強大な力をもった相手に、
私は対抗などは出来ない。
私自身の力は微々たるもので、
弱いのだから。
だが……
“私に勝つ事は魔女には出来ない”
そうである事は分かった。
最悪の場合、
私が魔女に殺され続けるという可能性はあるだろうが、
そこまで魔女を釘付ければ、
王様はなんらかの手段を講じる事が出来るだろうし、
そもそも本格的に魔女がこの国をどうにかしていない所をみると、
国をどうにかしてしまう力までは無いらしいことから考えて、
十二分に勝ち目があるように見受けられる。
この世界の人間達が強い場合も考えたが、
そうであるならば私が唐突に現れた時のリアクションが可笑しい。
もっとも、例外や、想定外はあるが、
恐らくはこの認識で間違っていないだろう。
特に問題はない。
そして、相手の対応も特に今の所間違えては居ないが故に、
試しもこめて誠実に対応する事にした。
「——対価は旅をするに必要な旅費を幾許かと、
　何かあった際に便宜を図ってほしいわ。
　可能な範囲でいいから。
　無茶だとか無理だと判断すればご自由にどうぞ。
　流石に無理強いを強いるつもりはないから。
　身分を証明するものもないしね。
　些細な事で水を差されるのは嫌いなの。
　それに、
　この条件であれば、
　国内で私がどうにもならない出来事を起こしたら、
　国外追放すれば済む話でしょう？
　別の所へまた旅にでれば良い話だし。
　ああ。こうして会話して交渉している以上、
　話の通じる相手なは分かってもらえたと思うわ。
　本気で抵抗するのなら——
　もう終わっているもの。」
そんな私の答えに対する王様の回答は——
「……確かに。
　理性的に話し合えるし、
　それならばこちらに損はない。
　救国の英雄に対して金銭の支給をするのも、
　便宜を図るのも自然な流れ、
　表沙汰には……」
「しない方が嬉しいわね。
　下手な名声は動きが阻害されるもの。
　少なくとも当面はね。
　公表するにしても、
　嘘か真か分からないようにがいいんじゃないかしら。
　どこの馬の骨かも分からない相手だしね。
　私は。
　それに最初も言ったように決して善人ではないわ。
　大きな迷惑をかけるつもりもないけど、
　必要だと思ったらやる女よ。
　——事件は解決した。
　そのうち真実に近い話が出たら、
　利用するくらいでいいんじゃないかしら。」
「……ふむ。
　なんだかこちらにむしのいい話で、
　逆に怖いな。
　……お願いしたいことは悪い魔女の退治ないし撃退。
　地図は用意しよう。
　それで報酬の前払いとして——」
「ああ、報酬は全部後払いでいいわよ。」
「……その代わり信じて任せろ、か？
　だが……本当にいいのか？」
真っ直ぐにずっと私の瞳を見つめている国王。
此方を図っているのだろう。
私としても別段騙すつもりもないので、
真っ直ぐと見返しながら、
「構わないわよ。
　ただし、
　魔女の所にあるものは勝手にもらっていってもいいいわよね。
　それくらいは赦して頂戴。
　私の戦利品よ？」
「其れはかまわない。
　魔女が何をもっているかは分からない上に、
　それは本来私達が手に出来うる代物ではない。
　君が悪用しない限りは、好きにしてくれたらいい。
　——他の連中に文句などいわせんし、
　いう事など出来ない。
　それと、
　もう二つほどお願いがあるのだが……」
「……聞きましょうか。」
「王子がそこに囚われている。
　私の息子だ。
　……余裕があったらでいい、
　助け出してもらえると嬉しい。
　そして……
　王子と結婚する予定だった隣国の王女が魔女の呪いにかかってな。
　魔女が死ねば恐らく呪いは解けるが、
　そうでない場合は、
　もし魔女の呪いを解くものがあるかもしれない。
　その場合、
　もって行くものを一端見せて、
　相当するものがあれば譲ってもらいたい……
　無理にとはいわないがどうだろうか？」
「なるほど、なるほどね。
　それでどうにかしてほしいと神に祈っていた、と。
　構わないわ。
　それが出来るかどうかは別として……
　可能であればやり遂げて見せましょう。
　それでいいかしら？」
「ああ、もちろん構わないとも。」
そういうと王様は指輪を一つ私に差し出した。
「……あら、これは？」
「魔女の元へ行く地図を受け取り、
　魔女を倒し報告するまで、
　身分が無くては流石に動き辛かろう。
　……せめてもの選別だ。
　余の名を受けた証に使うが良い。
　もっとも、
　それ以外の事使えないよう他のものにも言い含めておくが。
　構わぬな？」
「ええ、もちろん。
　商談成立ね。
　精々貴方の期待に応えて見せるとしましょうか。
　ああ、勘違いしないでほしいのだけど、
　これくらいどうにかしないと、
　私の沽券にかかわるし、
　それに……
　いえ、これは私だけが分かればいい事ね。」
そんな私の言葉に王様は苦笑を浮かべる。
どうして苦笑を浮かべたのか、
その理由は単純にして明快である。
「最強の魔女を相手にこれくらい……
　か。
　頼もしくもあり、
　怖くもありというのはこういうことだな。
　恐ろしさをしらないのはあるのだろうが、
　それを差し引いたとしても……
　否、もし想像以上の相手だったとしても……」
「勝てる自信も負けない自信もあるわね。
　想像を絶してたら話はかわるけど……
　まぁ、想像を絶するような相手の要素がないよね。
　残念ながら。」
「それはまた……
　なんとも……
　余としては武運を祈るとしかいいようがない、か。
　しかし……
　その、君のいた世界には君のような人間が一杯いるのか？」
「……性格が似てたりするのはたまにいるけど、
　私と同じような人間っていうのはいないんじゃないかしら。
　私がただの人間かというと、
　違うと答えざるをえないしね。
　まぁ、特別というと何か違うわね。
　特殊な人間と思えばいいわ。」
「それは、魔女みたいなものか？」
「うーん。
　別に魔女ってわけでも……
　いえ、そうね。
　魔女っていった方がしっくりくるかもしれないわね。
　——ご覧の通り黒い服を着て、
　不思議な力を使う女だもの。」
「……健闘を祈る。
　救いの魔女よ。」
救いなんて似合わないけどね。

見つかってしまえば、魅月嬢の包囲網から逃げるのは不可能であり。
朔位の攻撃に耐えるのも無理であり。
葛築はあっさり捕縛された。

自分は自分で部族呼ばわりされているし。存在しない種族が入り込むと、何某か共通項を見出し無理矢理種族名称を割り当てられる世界なのだろう。
しかし、捕らえたはいいが……

一か月、アングラで本物ゾンビと共に死肉を喰らい汚水をすすり生き延びたのであろう葛築の身体は、物凄く汚れ、臭う。
獣の咆哮を上げ暴れる葛築は、
人としての思考が残っているのか、和葛姫に呑まれ意識が混濁しているのか、
確かめようにも、臭くて汚くて近付きたくない。

よくある妖怪封じの術で香炉にin
朔位の顔色まで悪いのは、香の煙が朔位自身にも悪影響与えているから…
朔位本体は故郷に在り、ここにいる朔位は意識のみをこの世界の生物に憑依投影している御陰で、直接煙の影響は受けずかろうじて倒れずに済んでいる状態。