「場内の廊下に宝箱ってRPGじゃお約束だけど、
　明らかに不審物よね。
　そして魔物がいる様子をみると、
　いかにこの国が国として機能していないかが分かるというか、
　何か不信ばかりが募っていくとは思わないかしら？」
襲いかかる偽宝箱を霊で押さえながら、
戦闘中におしゃべりを始める私。
「ちょ、喋ってる暇ないって……！
　よいしょぉっ！
　あまり話しかけられても——」
「断るわ。」
「デスヨネー……
　とかいってる場合じゃないぃぃぃ！」
「しゃべりながらたたかうとはきようウサ。
　よくしたかまないウサね。」
「いや、そんなこと冷静にいってないで回復！
　回復頂戴！？」
「だいじょうぶ。
　ちめいしょうじゃない。」
「いや、確かに致命傷には程遠いけど、
　痛いのには変わりないから！
　しかも——」
チラリと３つの偽宝箱に混じって、
くすくすと笑いながら蛇を操り攻撃してくる女悪魔を見る。
「蛇の毒とか怖いんだけど。」
「まぁ、確かにね。
　でも大丈夫じゃない？
　こちらでの解毒はそこまで難しくないみたいだし。
　ま、貴女がやらないなら、
　私が潰しておくわ。」
やれやれ。
と、女悪魔——リリスへと意識を集中させる。
すると——
『ねぇ……
　聞こえる？』
私の耳元で囁く女の声がする。
だから、私は心の声で対話する。
どうせ口に出さずとも、
彼女に私の言葉は届くことを知っているから。
(聞こえてるけど、戦闘中よ。
態々こんなタイミングで話しかけてくるなんて、
何かの嫌がらせか何かかしら？)
そんな私の言葉に、
『……余裕たっぷりのくせに、
　わざとそういう事いう辺り最近性格更に悪くなってない？
　まぁ、別にいいんだけれど——
　あの女悪魔の体、私にくれない？』
私に語りかけて来た霊はとんでもないことをいい始めた。
——とんでもない事とはいっても……
(正気かしら向井さん。
またこちらの世界で出てきたと思ったら、
いきなりそんなことをいうなんて。
まぁ、吸血鬼であった貴女なら不可能ではないし、
力ある身体があって、
それをどうにか出来るなら奪うのは当たり前といえば当たり前だけど、
貴女がなまじ力あるからこそ、
あまりその状態長続きしないんでしょう？
まぁ、あれはその点、適してはいるでしょうけど。)
それが可能か不可能か、
現実的かということを考えてみれば、
十二分に、
というか現実的にありな話ではある。
『正気に決まってるじゃない。
　——ああ。貴女の力にはなるから安心して。
　というより、貴女の傍から離れた場合、
　何かあった時面倒だもの。
　——とりあえず許可が出たと思っていい？』
だが、私のいっているとんでもないというのは、
そっちのことではない。
それは——
(——まぁ、
人のことをどうこういうつもりはないけど、
向井さんって露出癖があったのね。
痴女とか今度から思っといていいかしら。)
という事。
『は、はあ！？
　ちょっと待ちなさい！
　さすがにあの姿のまま歩き回ったりしないわよ！
　身体に馴染んで服だってちゃんと着るから、
　実際に実体化するのはもっと後の話よ！
　あの身体悪魔なんだから、
　霊体化は楽だと思うし、
　慣れたらすきな姿くらいなれるし……
　その心配はないはず、
　それに……
　あれ以上適した身体なんて中々見つかるものではないって事よ。』
(……
あら、
あの身体使って男の人連れ込んだりするんじゃないのね。
吸血鬼じゃなくなる以上、
吸血より精気すった方が効率よさそうに思えるんだけど。)
『貴女の傍に定期的にいるだけで、
　おつりがくる位維持できるわよ！
　どうしてそういう発想するの！？
　どうせ私が離れた所で何かしても、
　追ってお仕置きする気満々でしょう貴女……！
　これでも付き合い長いから、
　それくらいは分かっているわよ！？』
相変わらず良い反応である事に満足しつつ、
笑う。
(……憑依してのっとったら、
身体の一部切り離して、直ぐに霊体化なさい。
そうしないと、守ることが出来ないわ。
身体を奪ってすぐに殺されるような真似は嫌でしょう？
残念ね。
お仕置きが出来る機会が無いのが。
ま、頼もしくはあるけどね。
またクラスメートとかになるのも面白そうだし。)
『やっぱり。
　まったくもう……
　ああ、先にいっとくけど、
　好きな姿をとれるなら私は色々やるわよ。
　クラスメートで付きっ切りとか、
　神経すり減らす未来しかみえないもの。
　嫌じゃないけど……
　……色々楽しめるなら楽しみたいのも分かるでしょう？』
(……ま、その辺りは好きにしなさい。
私が出張るような自体にならない限りは、
基本的に問題ないわ。
友達だもの。)
『そう、ね。
　色々あったけど死んで初めて友達っていえるようになったわね。
　普通は遅過ぎるはずなのに。
　本当に色々規格外よね。
　……今更、か。
　それじゃとっととやってくれるかしら？
　こうて会話してる時間なんて刹那の間に過ぎないけれど、
　サボりっぱなしというのもまずいでしょう？』
(はいはい。
それじゃあ——)
「もらったわ。
　——そこね。」
正確に霊を動かし、
リリスの精神を刈り取る。
その隙を突いて向井さんはリリスへと憑依し、
その身体を奪おうとする。
——無事上手くいったのだろう。
トカゲの尻尾きりのように、
抜け殻をその場に残して、
霊体化し離脱するリリス。
『上手く行ったわ。』
そう霊体化した後に告げたことを考えると、
どうやら向井さんは無事リリスの身体を奪うことに成功したらしい。
(それは何より。
流石に精神を削り取ってしまえば、
その精神を掌握、乗っ取るのは容易いといった所かしら。
向井さんの強力な自我と、
吸血鬼としての力あってこそではあるのでしょうけど。
で、具合はどうかしら？)
『とりあえず悪くはない。
　きちんと完全に掌握すれば、
　前よりは動けそう……
　とはいっても、
　やっぱり種族が違い過ぎる身体になれるのは、
　すぐにとはいかなさそうね。
　ある程度ならなんとかなるけど……
　実体化は戻ってからに期待といった所……
　ある程度の支援ならそう時間をかけずにも出来そうだけど？』
(十分。
よろしくね。
にしても、貴女にしては素直ね。
……
何か対価が必要なら先にいってくれないかしら？
後からいっても受け付けないわよ？
対価なしで友人だからという理由なら願ったり叶ったりだけど、
貴女はそんな殊勝な相手な事くらい分かってるわ。
で、何。)
『……
　ちょっといくつか目をつけていた食べ物があるの。
　お店につれていってくれない？
　貴女のおごりで。』
(——どうせ高い買い物にはならないでしょうし、
ただ、
いつどのタイミングでいくかはこちらに決めさせてもらうわ。
こちらの都合に合わせてもらう。
大丈夫、
そっちの都合が本当に悪い時にはしないようにはするから。
それでいいなら契約成立だけど、どう？
いいかしら？)
『いいわよ。
　じゃ、きちんと約束したから。
　後、家とご飯の世話もお願いしたいのだけど。』
(家はこちらで用意するというか、
私の近くで住んでもらうことになるけど、
どうせだから私が紹介するから、
私のサポートという形で職につきなさい。
それである程度稼げるわ。
後はアルバイトするなり、
何か職についたりすればいいんじゃないかしら。)
『それでいいわ。
　それじゃ、ちょっと疲れたから休ませて貰うわね。
　貴女に取り付いておけばはぐれる心配もないし。
　——身体を得ても幽霊のような事をしないといけないなんて……
　難儀ね。』
(……食べられたくはないでしょう？)
『……そうね。
　その時は止めないのでしょうし。』
向井さんと会話をしながら、
残った偽宝箱を葬っていく。
——大して強くなかったこともあり、
戦いはすぐに終わった。

「で、どういうことなの？」
「——役に立つなら利用する。
　シンプルな話じゃない？
　——友人が力になってくれるならなおさら。
　それ以上の理由がいるかしら？
　——対価は私で十二分でしょう？」
「んーむー……
　まぁ、いっか。
　そうだね。たしかにひつよう。
　まだまだこれからさきにすすめば、
　もっといろいろでてくるし、
　みつきがたいかをはらうならもんだいない。
　あ、それとこんばんのごはんいつもよりおおめでおねがい。」
「ええ、それでいいなら願ったり叶ったりね。
　問題ないわ。」
戦いが終わると、
やはり向井さんと私がしたことにエモさんが気づいたらしく、
早速私の元へやってきた。
話の内容は予想通り、
リリスが完全に食べれなかった事。
まぁ、分かってはいた事だし、
正直に答えて対価さえだせば分かり合える。
——今回の場合は少し彼女の嗜好にもあう案件なので、
私を引き合いに出さざるを得なかったが。
「それじゃあ、後でね。」
「ん。わかった。
　おわすれなく。」
ともあれ、最大の難関はあっさりとどうにかなったらしい。
(こういう場合、
貸し１とかいうべきかしらね？)
『ちょっと、代わりに力を……』
(ええ、そうね。
その身体を手に入れる手助けはしたし、
他にも報酬用意はしたけど、
彼女をどうにかするのは別料金よ？
私とて高くつくのだもの。
流石に貸し１くらいにしないと割りにあわないわ。
いくら友達料金といっても、ね。)
『……
　それで気前がよかったわけね。
　……条件なんて出さなきゃよかったわ。
　出さなかったら出さなかったで、
　この状況に持ち込むつもりだったわね？』
(当たり前じゃない。
駆け引きでまだまだ貴女に負ける予定はないわよ？)
『……これだから貴女は！
　もうちょっと可愛げがあっても……
　ありえないわね……
　まぁ、いいわ。
　貸し１ね。
　……見てなさい。
　すぐに返してあげるから。』
(ええ、貸し１よ。
ちょっとやそっとの事じゃ返すつもりはないし、
そう簡単に貴女に無様は見せないわよ？
見せても頼りにするとは限らないしね。
期待しないで待ってるわ。)
『相変わらずね。
　……頼もしいといえば頼もしいけど、
　憎らしいといえば憎らしい……
　それと……
　そこは期待するところでしょう！？
　もう、知らない。
　しばらく黙るわ。
　無駄な力使うわけにはいかないし。』
そういって、向井さんの声が途絶える。
まったくもってからかうと楽しい。
とはいっても、からかうのも難しい相手でもあるが。
基本的に私のペースに巻き込まないと、
からかってもさらりと流すのが彼女である。
だが、逆にいってしまえば、
ペースにさえ巻き込んでしまえば、
彼女は普通に付き合ってくれるのである。
だからこそ、楽しい。
「——まぁ、
　ちょっとからかい過ぎたかもしれないけどね。
　さて。と。」
一人になった所で周囲を見回す。
やはり、城の中だというのに人の気配はない。
人がいる様子はあるが、
城にしては人が少ないというべきか。
巨大な城にはそれにみあった人がいる。
それは当然の話である。
城の整備や清掃に警護等々。
どちらも本来外すべくではない人材だ。
無論、魔物達がそれを請け負っているから問題ないともいえるが、
そうであるのならば……
とにもかくにも現状を認識するべく、
整理してみたが——
やはり、一番引っかかったのは人がいるのが逆に不自然という点。
人と魔が手を取り合ってというのもあるかもしれないけど、
どうにも気配がおかし過ぎる。
もう少し友好的な気配があってもいい……
というか、無くてはならないのに。
……現状が不自然であることは自明の理、ね。
……いったい何をしているのやら。
それ以外についても色々と、
不自然過ぎる事が多い。
かといって、その答えにいたるには、
元凶たる王か、
それに近しい人物に接触する必要がある。
今までに接触した中では一人が該当するが、
それでも足りない。
もっと色々な情報が必要である。
めまいがするほど嫌な状況であるが、
ここでめげてもいられないので、
一つため息を吐いて気を取り直す。
最初から分かっていたことだし、
私にとってはどちらでもいい事。
むしろ、面白いことをみるならば都合がいい事じゃない。
と、気合を入れなおして前に進む。
当初と比べこういう考えをするということは、
やはり随分と周囲の皆に毒されたというか、
迎合したというか——
思うことはあるし、
自分の調子を取り戻さないとと思うが、
仲間と一緒だとそれも難しいだろう。
ならば、それはそれで一興と、
今は気にせず進むしかない。
どこまで進めるかは分からないけれど、
きっとその先に私を満足させてくれるものがあると信じて。

「パイナップル100」と書かれた小瓶を持っています。

彼の口調から[怖い]の意味が[女は怖い(苦笑)]の怖いだと感じ取れるかも。
知り合いの女妖怪に対するイメージと被ってるのかもしれない。

その辺り、自分の欲求を一番にとはしないようだ。

僅かに目線を逸らす。思い当たる節でもあるのだろうか。
そして、「信頼できる仲間」という言葉には表情を曇らせ。

そう言うと、ただ一礼をした。
言葉の裏を読める者であれば、彼が何を言いたいのかは伝わるのかもしれないが…。

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納得がいったのか、うんうんと頷いている。
一方で「協力する」という言葉に対しては…僅かに笑みを見せたものの、それはすぐに思案のようなそれへと変わり。

足をトントンとさせながら