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今回メッセお休みします。次回返します。すみません。

背を向けるグリゴリを何も言わず見送る。
しかし、後に相手に聞こえない程度の声で呟いた。

　　　　　？？？>>
　 　　　 　『……！』


辺りを闇に包んだこと、そして獲物を注意深く見ていたこと。
今この場においてはそれらが仇になった。

グリゴリの足元から放たれた閃光に、襲撃者は目を晦ます。
弓を仕舞い、耳を澄まして臨戦体制を取りながら、岩陰で視力戻るのを待つ。

視界が戻った後、襲撃者はグリゴリが姿を消している事に気付いた。
襲撃者は別の岩陰に移り、グリゴリの位置を探る。しかしグリゴリはどこにも見当たらない。
次に、グリゴリの動いた痕跡を探った。しかし、追跡を行えるだけの痕跡は見つからなかった。

　　　　　？？？>>
　 　　　 　『………逃がしたか』


向こうはこちらを補足したうえに、更にこちらの視界も奪った。
接近戦に持ち込まれることも覚悟していただけに、退くという選択をされたのは意外だった。

襲撃者は闇を晴らす。緊張を解いたと同時にやってくる疲労感。
襲撃者……怪傑Xの姿が、今にも沈みきってしまいそうな夕日に照らされる。

Xはふと夕日に視線を移す。それはかの黄金郷の色。
カダイエの守護者・マァムブ。それは決して沈むことのない太陽。
夜なき陽などあってはならない。暁なき夜など許せるものか。

決意を胸に、Xは夕日が沈むのを見届ける。
暗くなるにつれて広がる闇夜と共に、Xの姿は溶けるように消えてしまった。

イースはぐるりと一周しただけのエンブリオを目で追い切れずに翻弄されていたが、
すぐに瞳に映りこんできたエンブリオに負けないように、丸い瞳をいっぱいに開いてその姿を映す。

言葉を投げられれば、ぱっとそちらに注意が移る。
妙に嬉しそうに幾らか跳ねまわりさえしそうな雰囲気で言葉を呟く。

一瞬だけ、イースは真っ白く虚ろな表情を見せた。
けれど、鼻先に止まっては転がりおちたエンブリオの方にまた注意が映る。
気分が良さそうに尻尾は緩やかに揺れ、飛び回るではなく自らの上に彼がいることを悟ると、
首をめぐらせるのをやめて、こそばゆそうにしながらも静かになった。

ぴん、とひとつ爪弾き。
金属で練られた硬貨のように、尾を引く音の響きはない。
載せているであろう欲念や思惑。
感情などを勘定に入れれば些か静かすぎるほどに、
石の硬貨——＜メルンストゥーラ＞——はくるくると回って光を跳ねる。

慣れた所作が、落ちゆく一枚を手の甲と指先の間に閉じ込める。
いささか乱暴に、いささか繊細に。
ぱしん、と空気を叩く音がした。

所作に滲むは祈念か諦念か。
刹那を閉じ込めた帳がゆっくりと開かれる。
‥所詮はただのコイントス。
常軌で測れば、半々でしかないはずの結果。
けれどその所作はあまりにも重々しかった。


　　　　——　　Ⅰ.太陽　＜裏＞　

＜メルンストゥーラ＞は輝く。
山吹。橙。茜。琥珀。
その輝きが増して広がるにつれて、それは日頃親しんだ色味を帯びていく。
日暮れ刻。
太陽の残り香が、空を染める色。

その光に、その色彩に揺り起こされるように。
昆虫にも似た、けれどそれに非ざる巨躯を持った何かがその目を緩やかに開く。
閉ざされていた十三の瞳は、そのどれもが輝石の光と同じ輝きを窶していた。

かつての黄金郷カダイエ。
その守護者エンブリオ・マァムブ。

十三の瞳が熾烈な輝きを帯びる。
空が、染まる。
輝石が瞬いた色彩に、閉じられた瞳が染められたように。
空が染まる。
まるで一枚の紙や布なのではないかというくらいに、染めあがっていく。
辺りは一面の、黄金の夕焼け色。

尚もとどまらぬ光を背に受けるは十二の使徒。
そのすべては光によって一様に黒に塗りつぶされている。

ただ、正対する者らには見えることだろう。
その威容異質と、足元にまで伸びゆく十二の影が。


　　　　　　——　マァムブの覚醒が契約者達に変転をもたらす！

影がおおきく揺らめいた。
陽炎の類ではない。
錯覚というでもない。

変転は歪みだ。

あるものはその身に硬質を享ける。
白は黒を帯び、与えるものは受けるものを兼ね、
焦がれたものには翼を、走らせるものにはその身から色彩を。
吐いて繕う偽りも、真実に転じる。

あからさまな異質、或いは目を凝らすような軽微な差異。
使徒はそれらをそれぞれに身に窶してさらに影を伸ばす。

各々が一歩一歩を踏み出して。
相対すべきに、吸い込まれていくように。