前回（現時点でまだできてない）→
http://half.bufferin.jp/if/gd_19.html


--------------------------------------------------------------


フョードルは朝夕とグリゴリの傍に寄り添い、稀に、ふらふらと外に出かけた。
グリゴリから片時も離れたくないが、グリゴリのために何かをせずにはいられないのだ。
今までのような小振りのエンブリオの姿の時もあれば、大男程はある泥人形の姿の時もあった。


フョードルは死という概念を理解していた。
母親は、自分を産む時に命を落としたと聞いている。
死というものは生きていた人がいなくなる事、そう、グリゴリから聞いている。

つまり、今、グリゴリはいなくなろうとしている。
血溜まりに一人で倒れていたグリゴリは、フョードルにはひどく寂しいものに見えた。
一人ぼっちでいるのに、自分以外の誰もその事に気が付いていない、そんな気がした。


それがどうしようもなく悲しくて、泥人形は、何度目かの涙を流した。

カミユの名前に僅かに口端と眉を上げる。

先の予測と、理由についての感想をごったに口にしてから、
失笑ぎみに息を吐いた。

この会話が、ただの保険で済ませられるのなら、
そのほうがいいのは確かだった。

間を置いてから為される答えに、頷いて説明を聞く。

どうか。と視線を向けながら、問いに指の間から煙を吐き出す。

「何であるか」と特定できずに申し訳ないんですが。と、修道士は肩を竦めた。

そういって桜花は自分の肩から提げてる賽銭箱の中をごそごそと漁り始める。

桜花はグリゴリの機嫌を損ねている理由を勘違いしているようだ。

ごぶり、ごぼりと小さなエンブリオから泥が溢れ、見る間に大きな泥人形に変異する。

竜は目の前で膨れ上がるエンブリオをじっと見つめ——
それから緩やかに、けれど、素早くその傍らにその体躯を滑らせる。

ぶつぶつと呟きながら、泥人形はどこへともなく歩き出した。

なにか、決意を新たにするかの如く。
竜は独りでにひとつ首肯しては、先を望む泥人形を追いかけた。