『ピッ』

　会話相手の女の声に苦笑いが混じり、男も、ほんの少しだけ口元を緩ませる。

　初老の男は安楽椅子をかるく揺らしながら、棚からアルバムを取り出しては眺める。
　どのアルバムも子供たちの満面の笑顔で……ときどき、怒り顔や泣き顔で埋まっている。

　男がアルバムのなかから探しているのは、金髪の少女の姿だった。
　アルバムから取り出された何枚かの写真が机の上に置かれている。
　手前にあるのは、その少女の赤ん坊のころの姿だろうか。
　顔にしわがあまり寄っておらず、泣きもせず、眠りもせず、
　ただ、カメラのほうをじっと見つめている。
　彼女を抱いている腕はこの男のものだ。
　知らない人が見たら、精巧にできた人形を写したものだと勘違いするかもしれない。

　男はお手製のなんとも不恰好な赤い三角帽子をかぶっている。
　たくわえている白い口ひげは、本来の位置から大きくズレていた。

　女の声は、その子が喜ぶことが
　まるで自身の最大の喜びであるとでも言わんばかりに弾んでいる。

　男はもう一度、机の上の写真に目を通す。
　どの写真にも、ひとりだけ笑っていない少女が入りこんでいる。
　より正確には、表情がない。真顔ですらなく、顔がない。
　存在感なくたたずむ姿は、さながら亡霊である。

　女の悪態も、今の男にとってはむしろ心地よいものだった。

　男の私室の扉を強く叩く音が繰り返し響く。

　あきらかにパニックを起こしている扉の向こうの声の主を、
　男はとくに気にかけようとしない。

　男のかすれ声を聞き、ふふっと女が息を漏らす。

『ピッ』




　男は、窓の外をぼんやりと眺める。
　ようやく嵐はおさまったが、巨大ないくつもの燃える柱は
　いまだにあちこちから立ち上ったままだ。
　やがて、周囲のすべてがガラスかのごとく透明になり——





























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支えを失った人形のように、クリスの「体」が崩れ落ちる。

すぐに見えない糸でクリスが強引に引き上げられ、
ゆるい「気をつけ」の姿勢で硬直した。

聞きなれぬ言葉に首をかしげつつも
モクはクリスの言葉を受け入れ、頷いた

ふと、後ろから声が聞こえてきた
その声は少し枯れたような、老人のような声だった

そう言って小さなノームはぺこりと頭を下げた

そう嬉しそうにノームは言った
どうやら気づいたのはモク自身ではなくノームであったようだ

自身の内面に直接語りかけてくる声に戸惑いを隠せないようだ

この状況だというのに、落ち着きを取り戻した？

ホントウニ？

アナタノイシハ“グレンダ”ノモノナノ？

突然黙ってしまうグレンダ。
しかし、すぐにいつもの笑顔で答えた。

まさかの駄目出しである。

不服そうに告げた後、薙疾は少し表情を和らげる。

忠告は聞く、意味合いも大体判る。
その上で聞けぬ話。

薙疾は言葉を続ける。

"過去の咲く庭"──未だにクリスたち三人が、折に触れて意識する傷跡。