夜。

このメルンテーゼの世界に来てから、
レフはなにも野宿だったわけではなく、さりとて街で宿をとったり
ということもしていなかった。

仕立て屋稼業をするのには、仕事場ともなる店舗が必要という
判断のもと、コテージのような簡易住居を用意したのだ。

中には、仕立てや裁縫など、製作に使う道具の他、
今までに作製したものの数々を、見本品のように棚に置いてある。
もっとも、まだこちらに来てから作った物も少ないので、
棚はまだがら空きだ。


そんな、仕立て屋の主であるメイドはというと。

「・・・今年は、着れなかったわね」

あるものを手にして、ため息をついていた。

・・・水着である。

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　　　　　『レンタル宣言』企画[SummerVacation]
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〜夜の部〜

　　　　　　　　〜仕立て屋メイドの夏の夜〜
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レフの身体特徴を端的に言い表すとするのなら、
「スレンダー」という言葉が手っ取り早い。
身長は165cm前後で、全体的にスラっとしているからだ。
背中の翼のせいで、実際にスリーサイズを測るのは少々面倒だが。

ただ・・・スレンダーといったが、これは良く言えば、ということだ。
悪い言葉で言うなら・・・無いのだ。何が、とは言わないが。

「はぁ・・・我ながら、何でこんなものを選んじゃったのかしら」

またもため息がついて出る。
彼女が手に持っている水着は、彼女にしてみれば、
結構大胆なデザインのものだった。

本来はこういった、大胆に露出する（といっても、程度はわきまえている）形の衣服は
彼女は身につけたりしないのであるが。主人が主人なだけに。

思考が変わったのは、数年前の夏のこと。

彼女の仕える主人——イメトと、その妹弟であるシストとブラスと共に、
ある島の浜辺で休日を過ごしたことがあった。
その時、イメトに無理やり着せられたのだ。
大胆な水着というものを。

その時には、彼女の恋人も連れられて来たのだが、
彼女のその水着姿を、照れながらも褒めてくれた。

まぁ、それが切欠である。
好きな人の為になら、もうちょっと頑張ってみてもいいかも、と
思うようになったのだ。

・・・だが、選んでみたとしても、実際に着る勇気が起こるか
どうかは、別問題であったらしい。

「・・・・・・・・・・・・」

視線をさまよわせると、全身を見るための姿見（鏡）が目に入る。
仕立ての仕事に使うものだ。

ふと、「一度ぐらい、着てみようか」という考えが浮かぶ。

水着を姿見に掛け、一応、出入り口を確認する。
完全に鍵をかけられるようにはなっていないが、
まぁ、覗くような人もいないだろうとタカをくくってみる。
そんなことを言っていると覗かれるフラグなんじゃないかという
心配は・・・恐らく、無用だろう。覗かれた試しが無い。

（しゅる・・・しゅる・・・）

衣擦れの音が静かに響く。

エプロンドレスを脱ぎ終わり、水着を手に取ると、そこで動きが止まる。
ことここに至っても、少し躊躇いがあった。
しかし、ここまでやった以上は、という気持ちが優先された。



水着を着終わり、改めて姿見を見てみる。

「・・・・・・」

恥ずかしい。

こうやって、自分で自分の姿を見ているだけだというのに、
思わず翼で隠したくなってしまう。

普通の人は、ここでポーズをとってみたりするものなのだろうか。
だが、そんな余裕は彼女には無かった。

それに・・・自分の主人や、同僚たちに比べると、
自分のこの身体の貧相さたるや・・・。
なるべく、似合うものを選んだつもりではあったが。
（先にも述べた通り、別に悪い体型でもないのだが）


「・・・もう寝ましょう」

レフは、そう漏らして、水着のまま、
さっさと簡易ベッドに横になった。
着替える気力もなくしてしまったらしい。


いつか、彼女が恋人に、その姿を披露することはあるのだろうか。



まぁ、ただでさえ数年ほど進展していないので、
なかなか先のことになるだろうが。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〜夜編　終〜

お前はデストミー本人であるのか、当然とも言える問い掛けに対し思わず息を呑む