SAYONARA

　狐は、左腕を取ると相手が痛みに悶絶するのにも構わず「ここか、ここか？」と確かめていく。
　だが不意に、痛みが軽くなるだろう。いずれ疲労程度の残滓しか残さないようになる。

　一息つく。彼女の帰参は、戦争の始まりでもある。
　穏やかな視線を注ぎつつ、狐はわずかに肩をすくめた。

　彼女の瞳が赤く濁った気がした。感情が魔力を暴走させたのだろうか。
　あるいは、彼女自身に何らかの制約が課されている可能性もあるが——。
　……それは、ラーフィーの問題だと思い直して表情を緩める。

　蛇の娘も、最後まで憎めぬ可愛らしい子であった。
　この２人はいずれ道が分たれるのであろうが、出来るならば最後まで添い遂げて欲しいと思っている。

　やがて談笑に興じている最中に、ラーフィーがそわそわしながら立ち上がった。
　漂ってくる香り。美味しそうという文字からは、程遠い感触に頬を引きつらせ。

　少し考えたあと、立ち止まって少女の肩をがしりと掴む。

　そう告げると、緋金の尾を揺らす狐は彼女を軽く抱き寄せた。
　そして、塵が風に攫われるようにあっという間に掻き消える——。

　決して、セレスちゃんの料理から逃げたわけではありません。


※最終更新につき。最後まで交流戴きまして、ありがとうございました！


　——時は遷ろう。
　狐は荒れた大地に立ち、にやにやと愉しそうに微笑んでいた。
　目前には、粉々に砕かれた神鏡。傍らで膝をつく、ぼろぼろな少女の姿。

　さあ、これからだ。最後の強敵は、最後にやってくると相場が決まっているぞえ？

　狐は獣姿となり、少女の元へと駆けていく。
　大切な友の、助けとなる為に。