夜の海は、昼とはまた別の顔をして私達を迎えた。

まばらな人影
昼間の喧騒はどこへやら
波の音が耳に響く
サクサクと砂を踏む音
風が頬を撫でた。

スィナンと別れ、私に合流したヴルと
今はゆっくりと浜辺を歩いている。

「マネキ・ネコはうまくいったか？」
「がうっ」
「そうか」
心なしか、誇らしげな顔をしているように見える。
「そういえば森でアデル殿と会ってな」
昼間の一部始終をヴルに話してみせた。
分かっているかどうかは別だが。
それでもヴルは私の顔を見ながら耳をぴくつかせていた。
「同じ海でも、夜はまた違うのだな」
波打ち際を歩きながら、沖へと目をやる。
月明かりが沖を照らしている、なんとも幻想的だ。
ヴルを見れば何やら小さなカニとじゃれているようだった。
私は少し離れた場所に腰を落とし、一息ついた。

（おそらく、私一人ならここへは来るまい）

視線の先で戯れるヴルを見ながらそう思った。
あれは無邪気だ、誰にでも心を開く。
天性のものなのだろう。
羨ましい、とも思った。

（私にはないものを、お前は持っているのだな）

視線を感じたのだろうか、ヴルがこちらを見る。
遊ぶのをやめてこちらへゆっくりと歩いてきた。
「がぁう？」
首を傾げるヴルに“なんでもない”と返す。
遊んでいていいのだぞ、と返せばもういいと言いたげに
私の横に座り込んだ。

「今日は楽しかったか？」
「がうっ！」
「そうか」
ヴルの頭を撫でてやると、心地よさそうに目を細めた。

「私も、楽しかったよ」
ヴルの毛並みを楽しむように撫で続ける。
「お前のおかげだな」



「有難う、ヴル」

その時の私はどんな顔をしていただろうか。

浜辺に佇んで海を見つめる

静かな夜の海を前に落ち着いた時間を過ごして…

…いたのだが、視界の端に大きなカニを捉え駆け出した。

元気よく返事をした後、マネキ・ネコをする予定の海の家へと駆け出した。

ハールがその場を去る直前に振り返り
嬉しそうに一吠えしてから再び駆けていった。