？？？の日記：■の巻

別に、何か考えがあった訳ではない。
ただ、ふと、ふと思いついて、共に歩いていた2人から離れた。
それも、気付かれないよう、夜の内に。
そして気がつけば、足は砂地へと向かっていた。
あの場所は、故郷を思い出す。
ただ、枯れた土地と岩場の広がる不毛の大地。
それはどうしようもなく、ロックに昔を思い出させる。
ただ1人、戦い続けていた過去の事を。

そうして歩いて行くと、砂地に見覚えのある顔が見えた。
別行動をとっていたテラーだ。
こんな所で会った事が少しおかしくて、つい、声をかけた。

テラーと呼びかけられた男は、ロックを見据えると、口を開いた。

あまりにも唐突なその言葉に、ロックは一瞬言葉を失う。
しかし、すぐ回復し、呆れたように言葉を発した。

しかし、目の前に居るテラーの姿をした者は、その問いに答えず言葉を続ける。

目が覚める。辺りは真っ暗で、何も見えない。

ロックは、自分の頭が悪い事は自覚している。
だからそう言った事が必要な時は人に任せていた。
今も、考える事を放棄し、とにかく動いてみようと考える。

そうして、歩き出した彼の前に、2人の人物が現れる。
テラーと同じく、見知った人物……グレンダと、CHJ-26。

見知った人物の登場に、ロックは喜び、声をかけようとする。
——先ほど、似たような事があったにも関わらず。

何時ものような笑顔で、軽い頼みごとをするかのように。
ロックがその手で作った剣の切っ先を、ロックに向けた。

そう、言おうとして気付いた。“あれ”は違う。
自分で作ったからわかる。“あの”剣は、本物じゃない。


——そう、気付いた瞬間、まるで視界が開けるかのように、全てが見えた。
グレンダだと思っていた者は、漆黒の、まるで悪意を固めたかのような人形で。
ＣＨＪだと思っていた者も、同じく、漆黒の人形だった。

人形達は、ゆらゆらと揺らめきながら、戦闘体勢を取る。
その体勢は、先ほどまで化けていた2人の構えと、うり二つであった。

——ロックの闇。それは、欲求。
自分の力が強大である事は知っているし、自覚もあるのだが。
その力をとにかく振るいたいと言う“欲求”が強いのだ。
戦いを求め、自らを省みない。それが、ロックの闇。
その強い欲求は、シェイドと共鳴し、新たな力となった。
自らが一番の強敵だと思う、仲間の“影”と会う事を条件として。
これらは全て、ロックの無意識下での出来事ではあるのだが。
仲間になってからずっと、グレンダや、ＣＨＪと戦いたいと、無意識に思っていたのだろう。
シェイドは、その欲求に従い、影と戦わせようと思っていた。だから、グレンダの姿を模し、剣を突き付けた。
彼ならば、嬉々として応じると思って。

これらの事は全て、夢の中で行われた。

ふと思いついて離れてなんて居ない。
朝になればロック1人で砂地に向かう事にはなっているが、それは皆知っている。
全ては“夢”。シェイドが見せた、新たな力のための試練。

そして剣を突き付けられた彼は、戦いには応じなかった。
まず、グレンダの冗談を疑ったのだ。
シェイドにとっては、予想外な事に。
ただ、その驚きは、良い物だった。
ただの戦闘への欲求ではなく、彼の力になってもいいと、思えるほどに。

そうしてシェイドはロックの新たな力となった。