※ 過激な表現が含まれています。 観覧の際はご注意を。





荒野の街に建てられた二階建ての小屋。”怪傑X”と仲間達の隠れ家。
怪傑Xは、その小屋の前に立っていた。

Xは扉のすぐ隣にある呼び鈴を鳴らす。

「お前…ペナじゃないか！一体今までどうしてたんだ？」

『………』

「……おいおい、無口は卒業したハズだろ？皆待ってるぜ。ほら、上がってけよ」

怪傑Xは小屋の中へと入り、扉を閉めた。






小屋に入って最初に見つけたのは体格のいい男。彼は気さくな人柄で、仲間の輪に入ろうとしないXをよく引っ張っていた。
X-13は彼を騙されやすい人間だと…いつか馬鹿を見ることになると、そう評していた。
怪傑Xを信じ、仲間になってくれた男だった。最初の仲間だったのだ。

玄関に入ってすぐの廊下で、男は首を無くしていた。
何か、強い力で背後から頭を引き千切られたようだ。
そこら中に飛び散った”中身”が、消えた頭の末路を物語っている。


湧き上がる絶望は、悲しみと怒りに昇華される。
他の仲間は無事なのだろうか。感傷を振り切り、広間へと急ぐX-13。

広間では仲間が４人、倒れていた。


ゴーグルの男。偏屈で口の悪い男だったが、同時に仲間の中で最も優しい男だった。
最初に組んだ時は、稼いだ賞金を全て持ち逃げしたのだ。
Xでなければ辿れなかったであろう逃走経路を辿った先にあったのは、小さな孤児院だった。
それからは良き仲間として、この小屋に集まって組み続けていた。

自慢の脚はあらぬ方向に折れ曲がっており、黒く有機的な杭で地面に縫い付けられていた。
ゴーグルの下を覗けば、あの細目がいっぱいに見開かれたまま硬直していた。


黒い肌の少女。奴隷商の馬車を襲った時からずっとついてきていた。
引き取り先を見つけてもこの小屋に残ろうとするため、X-13はその度に怒鳴りつけたものだった。
少女には表向きの仕事を任せることにし、荒野に咲く花を取引させていた。
たまに膝に乗っかってくるのがたまらなく鬱陶しく、そして愛おしかった。

心臓を杭で一突き。まるで蝶の標本のように、壁に固定されていた。
苦痛に歪んだ表情で天井を仰ぎ、X-13が彼女を見つけた時、その目が少し動いた気がした。


金髪の女。酒場のマスターの娘で、ついにお嫁に貰われなかった三十路。
いい仕事を回してくれた女で、いつの間にやらX-13達と同業者になっていた。
女が小屋に来るようになって、この場所は静寂を忘れ去ったのだ。

何か強い力で叩きつけられた肉体は四散し、もはや原型を留めていない。
散らばった金髪だけが、彼女の名残だ。


マジシャン気取りの男。余裕かました態度を取るが、実は激情家だ。
この男とX-13はよく喧嘩していた。
男の態度にX-13が怒り、つられて男まで怒り出す。そんなパターンが構築されていた。
X-13の素顔を知る者の一人で、心の中ではお互いに認め合っていた。

左半身の殆どが弾け飛んでおり、腹部には無数の黒い杭が刺さっている。
それでもまだ、生きていた。


マジシャン気取りの男……レオの元に、X-13は駆け寄る。

「おい！しっかりしろ！ここで何があった！」

「——あら不思議、こんなに刺されてもまだ生きてるだなんて…さ」

「こんな時にまで気取ってんじゃねえ！馬鹿！」

レオが助からないことは目に見えていた。
X-13は色々な感情がごちゃ混ぜになったような表情で、レオを見る。

「ああ…わかってたよ…。”アレ”が…お前じゃ…ないってこと位…さ……」

「だから何言ってんだお前…！」

X-13の問いに答えるように、レオは天井を指差す。


天井には斜め十字の”罰”が刻まれていた。


「怪傑……X…！」

そこら中に散らばる黒杭に、天井の十字。怪傑Xが外道に対してやってきた事と同じだ。
黒杭はアトの力を借りなければ生み出せない筈だ。
ならばこれはアトがやった事なのか。もしくは、自分でない新たな”怪傑X”の仕業か。

何故仲間達が殺されなければならなかったのか。
怪傑Xを恨む人間の仕業としか考えられない。

「———ありがと、な」

唐突に紡がれる感謝の言葉。とてもあの気取り屋の言葉とは思えない、素直な言葉。
それを最後に、レオは事切れた。

「勝手に逝ってんじゃねーよ馬鹿野郎！クソッ…クソッ…！」

仲間と過ごしてきた記憶が、X-13の中を駆け巡る。
安らいだこと、苦しかったこと。

それを奪ったのは誰だ？——それは怪傑X。
では怪傑Xは誰だ？——X-13だったが、今は違う。

ただ一つわかる事がある。——これはアトの力だ。


「アトォォォォォォォ！！！！」

刻まれた”罰”を通して、己の根源に咆える。
咆哮は響かず、広間は静寂を思い出す。


静寂の中で、X-13の体から力が抜けていく。

”怪傑X”でない自分に何が出来る？
臆病な癖に。身の程知らずの癖に。エンブリオとの契約もまともに出来ない癖に。

守るモノの為なら何にでもなってやると誓った。
夜空に輝く星の如く遠い理想すら掴めるように。

『滅ぼした先に何も無い？上等だ！
俺はな、そいつらを滅ぼす為だけに今を生きてんだよ』

守るモノの為に侵すモノを殺した。
侵すモノを殺し続ける為に殺戮者になった。

『忌み子。お前は結局、何を守った？
そう、何も守れない！何も変えられない！なんて無価値なヤツだ！』

もう、何者にもなれない。
空に向かって伸ばした手は、力なく下ろされる———

『———人でなければ、今度は化け物でもねぇ。
ただの”死体”だよ、今のテメェは』

　目まぐるしく変化する状況に、ポポロは目を丸くして眺めていた。
　そして、長身の男に「どうなったか」と問われると、首を思いっきり傾げて、

　トンチンカンな説明のくせに、なぜか最後のほうは自信満々な顔だ。
　そして、さっきから鳴り続けているお腹の音に、ようやく意識が向いて、

　ところどころ妙な言い回しだが、そう言った。

笑顔でとんでもないことを言い出す赤毛の少女。
「あくまでその範疇でとどめている」といっているようなものだった。

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火に油を注ぎ続ける女、エリュテイアロートレック

視線を感じた方向にとっさに目を向けると、草陰で弓矢を構えた男の姿があった。

パシュッ

少女が即座に構えをとり、矢を放つ。
弓から放たれた矢は草陰の手前の土を抉った。