石を投げられても、槍で胸を貫かれても、私は死にませんでした。
血がたくさん流れました。体がボロボロと崩れるほどに走り続けました。
誰もいない場所へと逃げて、逃げて、やがて岩だけが転がる荒れ果てた土地にたどり着きました。
そこには水はおろか、草木の一本も見当たりません。
ここは墓地なのだな、と思いました。
私たちのような人間は、死ねば打ち捨てられるだけなのです。

やがて私は、体が酷い渇きと空腹を訴えているにもかかわらず、苦しみも悲しみも感じていないことに気付きました。
私はどうやら飢えているのだな、と、まるで他人のように理解しました。
転がる岩に混じって死体のように横たわり、目を閉じると、そのまま何日かが過ぎました。
私は死にませんでした。私はもう変化することはないのだなと思いました。
見上げる空は美しく、空気は乾燥しています。
嘘のように穏やかな感情がゆっくりと心の中を流動しているようでした。
彼女を恨む気持ちは微塵もありませんでしたが、ただ、私はもうこれ以上、誰にもこの症状をうつしたくないと思いました。
悲しみが消えても、無為に人が死ぬのはできるだけ避けたいと思ったのです。
それは単純に、惜しいという気持ちでした。

　　　　　　──人もをし　人も恨めし
　　　　　　　　　　　あぢき　　　なく
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　世を思ふ故に
　　　　　　　　もの　　　　　　思ふ身　　　は───