移動だけなら問題ない。
もっとも、邪魔だと言うなら大人しく引っ込んでいるがな。

ええー！？パパもいっしょのほうがいいよー！

ねえ、レグルス。
私も新しいエンブリオが欲しいんですけど…

……。

カミユ……。

けっ。

…

こんにちは〜

あ、びっくりしましたか。心配して下さってありがとうございます。
今はこうして、首輪は悪いレグルスに移りましたから…

もう大丈夫ですよ！

こう、外して、
そのままレグルスに…

…

首輪、触っても大丈夫ですよ。

！！！　よ、よくねえよ！！
何言い出しやがんだよ！！

レグルスが喋らないから……

どっか行けよ。

・・・ん。
ふふ、あんたがぴりぴりしるっていうんなら皆ぴりぴりだわ。
ま、謝りあってても仕方ないわね。

うん。大丈夫。別に無理してるわけじゃないから。

・・・わたし、もっと、役に立てたら良いんだけどね。

はいはい、おやすみ。

ん？あいつ？
なんか手錠とかしてなかった？なにあれ？

……。あんたなりの好意ってことだね。
悪かった、すこし過敏になったさ。

それじゃ、もし酔いつぶれたら、介抱しておくれよ。
飲み慣れてないでもないんだ、
そんなことはやらないと思いたいがね。
よく知らねえ酒を飲むとよくわからねえ酔い方することもあるから……

……時間があって、生きてたら、ま、寄らせてもらうよ。
その時は、もしかしたら、背負ってもらうかも知れないな。

……あたしたち革命者は、《人を支配するものを倒す》……王を倒すって動機を動力に動いている車輪みたいなもんだ。
その世界からひとつ大きな王が消えると、糸が切れたみたいに、ひどくすべてが億劫になる。
心のなかがぜんぶ憂鬱になるんだ。
ひどいときは、食事も着替えもできなくなって……朝から、起き上がれなくて、ずっとベッドのなかにいるまま、夜が更けて、ああ、起きられなかった、と思いながら、浅い眠りにまた落ちる、そんなこともある。
王のいなくなったあとの革命者は、そうした、わりあいぶざまな姿になる。
……。それでもよけりゃ。

自分のことなんて、私だって謎だらけさ。
謎をわかろうとする態度っていうのがあってさ……でも、謎ってのは、必ず理解より大きい。切り分けて、分類しようとしても、かならずわけきれないもの、わかりきれないものが残る。
私の分類だって、どこまで正鵠を射るものかは怪しいぜ。
わかったフリをしているだけで……本当は、わからない、って態度のほうが、正直なのかも知れない。

赤くなってるぞ。酔ったかい？
……。

私は……わかってほしいとは、いつのまにか、思わなくなってたけど。
でも、わかってほしいのかもな。
革命者ってのは理屈屋が多いんだ。
理屈ってのは、公平で、客観的だからな。自分の中の火を、なんとか人と共有しようとして、そのための通路に、理屈を、論理を選ぶんだ。
革命者はひとりではなにもできない……肉体的に強靭なわけでもない、特別な魔法が使えるわけでもない。国家を相手取るにはあまりに小さい。
だから、人とつながろうとする。

とはいえ、理屈ってのは、生まれ育ちで向き不向きがある。
あんたは、心の、（とん、と長い指が、カミユの胸をつく） 心の、まんなかで、相手の言葉に共感して、わかる……
そんなやり方のほうが、合ってるかもな。
だから、もうちょっと、人に、その心を開いてやれよ。

あんたは、すこし苦労して、受難のなかに放り出されて、大人になろうとしている、小さな子供だ。
……聖処女が尊いというのなら、引き受けられるはずのない受難のなかで、なんとかよくやっている、やろうとしているあんたも、尊い。

……ま、頭でも撫でてやるにゃあ、ちょっと体が大人だけどな。

これはレルヴォヴェールの紙なんだけどよ、薄くて丈夫だ。紙が折り畳めるってのは、世界によっちゃけっこう驚かれるんだよ。
見たけりゃ書いてやってもいいけど……ペンがねーな。

巡礼者の子供……そうか、異邦人だったんだな。
それじゃあ本当にメルンテーゼの生まれかもわからない、か……。
……そうか。つらい話じゃあないんだったら、まあ、よかったよ。

親子ってのは一筋縄じゃあいかないが……ま、いたらいたで、いいもんだ。
いなけりゃいないで、いないなりの浮き沈みってのもあるだろうから、結局、人生ってのは、配られた手札で楽しめってことだあな。
……いいとこだったんだな。あんたの故郷は。

……いつか、本当に帰る場所、か。
そういうのは、ないな。
私はずっと、焦燥がある……ま、それも、呪いのためなんだろうけどさ。

それでもこの世界で、ヤールやフィガロとそれなりに長いこと暮らして……ま、ちょっと、人と暮らすってのもいいな、とは、思うようになった。
ただ、それは、いつか落ち着く場所が欲しいってことじゃあないんだよ。
私の最期は、たぶん、野垂れ死にだろう。
そういう人生のなかで、果物がたっぷりのパイを食べてるような季節が、ちょいとくらいあるのはいいな、って、そんなくらいのものさ。

……呪いとはいえ、魔術の一種だ。
解呪できないことはないんだろうけどね。
……。
……私たちの世界はさ。正確には、私たちの世界の政権は……長い長い時間をかけて、その呪いを解こうとしているんだ。

三百年くらいしたら解けるんじゃねえかな？
ま、その頃には、私も生きちゃいないか。
ハハッ！

エンブリオ契約のしかたは、わりあいそれぞれの契約者によって違う。私はこれしかやり方をしらねえってだけで……。
身をえぐるようなのがさ。
たぶん、性に合ってるんだよ。
あんたたちの間でもけっこう違うんじゃあねえかな。

ルーだけ？
いや、いくらなんでも、それだけってことはねえだろ？
ほかにもいろいろ、契約しているエンブリオはあるんじゃあねえか？

パパのために、がんばる！！

ふん

何人何匹出てこようが同じだ。まとめてブッ倒す。

……手早く済ませましょう。

あんまり、無理したくはないわね。

働かざるもの、喰うッ！！

ヴヴ・・・・・ァア・・・・・・？？

働かざるもの、喰うッ！！

働かざるもの、喰うッ！！

ヴヴ・・・・・ァア・・・・・・？？

働かざるもの、喰うッ！！

働かざるもの、喰うッ！！