シセさんに作ってもらった槌で軽く素振りをしてみる。
家から持ってきたネイルハンマーよりずっと重いものだったけど、
形が違うからか、前のそれより使いやすいように思った。
これでもっと、強くなるはず。

素振りをやめて、ネイルハンマーを手に取る。
家を出るちょっと前、武器になりそうなものをお兄ちゃんと一緒に探したときに
庭にある物置で見つけたものだった。
物置の奥に放置されてた、もう使っていない傷だらけのそれは、
掘り起こされて武器としてまた使われることになって、またこうして役目を終えた。
邪魔になるし、そのうち捨てることになるんだろう。

お兄ちゃんが使ってたわけじゃなさそうだし、きっとこれはお父さんが置いていったものだ。
…お父さんは今どこにいるんだろう。
顔も覚えていない、どんな人なのかも知らない、お父さん。
メルンテーゼにいるのか、一揆のことは知っているのか。…そもそも生きているのか、とか。
なにも、何も知らない。

首を傾げるサンドをポピーが鼻先で転がし、無防備になった腹を舐める。

この世界には動物虐待とか無いのかな……エンブリオ虐待？
ワールドギャップに戸惑っていると、二対四つの目が私を見つめていた。

そっと屈みこみ、サンドちゃんに腕を伸ばす。
拒まれなければ「あ、うわ、ずっしり」などと抱き上げて、ニコレットを見つめるつもりだ。
拒まれたときは、残念そうに笑って立ち上がり、やはりニコレットと視線を合わせるだろう。

青年は無表情で残念がっているのかどうかは分からない。
それどころか「大切なリボンなのに簡単に貸してだなんてごめん」と謝ってきた。
しかしそう言うリボンの奥で、ぎり、と歯噛みした音が小さく聞こえ、
少女は自分の決断は間違っていなかったと安堵する。

そう言って頭を下げた青年の手にはいつの間にか一輪の可愛らしい花が現れていた。
なんでもないかのように青年は花を手渡し、言う。

少し休める場所は無いかと周囲を見回し、座りやすそうな1個の石に目が留まった

その石（？）の近くにいる女の子に向かって声を掛けた