「あー……吃驚したー……」
「……すみません、急に剣を突きつけたりして」
「ううん。こっちこそごめんね、寝てるところにこそこそと」

時風と槿花と一緒にいた、薄く光をまとう彼女はウィスプという種類のエンブリオで、時風の友人らしい。
昔から手当てが得意で怪我をしてばかりな私の傷を手当てしようと時風が連れてきたのだと、時風が話してくれた。
ちなみにその時風は今、少し安心したような顔をしている。

「……よし、できたっ」

ぱっとウィスプが手を離すと傷を負っていた箇所に綺麗に包帯が巻かれていて、その仕事の丁寧さは鬼桜家の一員である彼女を思い出した。

「……ありがとうございます」
「どういたしまして。……あ、そういえばなんていう名前なの？」
「……鬼桜玉藻といいます。今は時風たちと共に行動しています」
「……ね、ねえ、玉藻」

ウィスプに名前を名乗ったとき、軽く服を引っ張られて私は時風のほうを見た。
時風は視線をあちらこちらに彷徨わせた後、私を見つめてくる。

「……この子も、一緒に連れていってほしいんだけど……駄目？」

時風の言葉に、驚いたような顔をしているウィスプを見る。
少しだけ考えてから頷くと、時風はお礼を言い、ウィスプは申し訳なさそうに笑って小さく頭を下げた。
その様子はやっぱりあの子を思いだして、少しだけ懐かしくなる。

「……じゃあ、そうと決まれば名前をつけないといけませんね」
「名前？」
「主様はな、同行するエンブリオに名前をつけておるのじゃよ」

槿花に頷いて、私はウィスプの頭に手を乗せた。
彼女につける名前は、もう決まっていた。

「祓。貴方の名前は、祓です」

私を姉だと慕っていた、あの子と同じ名前を、この子に。

もしゃもしゃと草を食いながらくつろいでいる。