俺様は猫である。
名は無い。
シンネンオショーガツは俺様をネコチャンカワイーと呼んで膝を提供する人間の小娘共が、いつもより派手で長い袖の服を着てて、爪引っ掻ける毛が付くから来るな言う。俺様しょぼんの期間だ。ミュー・・・

とりあえず
人の姿に擬態した。蜘蛛の姿のままでも周りの生き物共は警戒しない呑気な性質だが驚きはする。
それに蜘蛛の体は大き過ぎて、この固形物だらけの地形をうろつくには不向きだ。

数日かけて適当に周回し、顔合わす何体かの生き物--いわゆる[人]--と言葉を交わし、
状況を掴めていなかったとはいえ[此処で出会う人]を食ったのはもしかして不味かったか…？と思い始めた頃合いに

海のような鮮やかな青い髪を長く伸ばしワンピースを着た少女の後ろ姿に、目を惹かれ。
その少女に近付いて、
「嬢ちゃん？久しぶり。」と。
自然と言葉が口から漏れ出、声をかけていた。

「なんじゃー、おぬしは。わしのペットになりたいのか？
よし、許して使わす。」

ふり向いた少女は生き生きとした輝きを放つ赤い瞳を持っており、その顔が無邪気な笑みを浮かべ、俺の目と同じ高さまで小さな身体を浮き上がらせ、
その幼い容姿に反して年寄り臭い口調でクソ偉そうな言を発する少女を見て即、

おおっと人違い

と察する。
そもそも誰と間違えたのか自分でも思い出せないのだが。人違いをしたのは確か。
こんなガキは知らん。
「すまん、人違いだ。
オモチャかペットが欲しいならお父さんお母さんに頼みな。じゃ、」
謝って断って踵を返そうとしたところで、

「人違いの振りして姫様をナンパせんと企むとは、なんたる無礼なる振る舞い！
不敬ですぞ！！」

不本意極まりない内容の警告と同時に側頭部を殴打された。
カパーーン！という軽い金属音が響く。
「ん、な！？え・・・ええ！？」
驚いた。物凄く驚き、かつ戸惑った。
俺の隣にはタキシードを隙なく着こなしシルバートレイを携えた爺さんが立っている。どうやらその手にしているトレイで殴られたらしい。
痛くは無いが・・・いきなりいわれ無き疑いで殴られた事より、殴られるまで爺さんの存在も接近にも気付けなかった事に、まじで驚いた。
「・・・・・・どちらさん、ですか？」
素直に名乗られたとしてもどうしようもなかろうに。つい気を飲まれて間抜けた質問をしてしまう。
当然この場合の爺さんは名乗ったりしない。

「頭が高い！姫様の御前ですぞ。
即刻、跪き先の非礼を謝罪致せ下郎。」
「どこの時代劇の出だよ爺さん・・・」

「構うな、じい。こやつはわしのペットじゃ。
以後、皆もそれを心得てあつかえ。」
・・・さっきから何なんだこのガキは。って[皆]？

『『はっ。御心のままに、承知いたしました。』』

驚きを通り越して言葉を失う。

それこそいつの間にか
妙な少女と変な爺さんの後ろには執事とメイドの集団が並び揃い。
更に、俺と少女と黒服連中諸共に、異国の紋章を掲げた軍隊でみっちり包囲されており、
そいつらが声をそろえて姫様とか云う子供の言葉に恭しく応えたのだから。

あっけにとられている俺の頬を突っつきながら姫様とやらが喋る。
「おいお前、なはなんじゃー？」
「え？」
なわなんじゃ？…何？
「わしの使う言葉がわからぬのか？おーい。」
「不敬ですぞ！ぼんやりしておらんで即答せんか無礼者。」
ああ、名は何じゃ、ね。名前を訊かれたのか。
おーいと言いながら頬を叩く子供がうざい。そのうざい手を摑まえてどかそうとすると、今度は爺さんが警告を喚いて煩わしい。
そういやスルーしてたが何で浮かんでいるんだこの子供。霊とかじゃないよな。実体在るし
「……。」
名前、何だっけ？長い事使わなかったから忘れてる、なあ…？
思い出そうにも、知らん連中に囲まれてたこの雰囲気が障り、集中できん。
軽く、片足を後ろへ引き。足場の安定を図る。
出現状況からして只者ではない連中だが。蜘蛛の形状に戻れば…

「お前たち下がっておれ。
かわいそーに、ペットが怯えておるではないかー！」
俺の剣呑な気配を子供ながらに察したらしく、子供が命令一喝。気配一切残さず、今周囲を取り囲んでいた兵士達も執事もメイドも霞と消え去る。…幻覚とかじゃねえよな。あいつらは確かに居た。これも何かの術なのか？だから魔法がらみは嫌なんだ。
つーか、そろそろペットをはっきりきっぱり否定しないと、このまま事実認定されそうだ。
「怯えていらしたのは否定なさらないので？」
「まあな。…児童誘拐を疑われて軍隊に囲まれりゃビビるのは当然だろ。
つか、爺さんあんたは下がらんのか。」
「姫様公認のペットとは云えども、姫様をナンパする不審者と姫様を二人きりにする訳にはゆきませぬ故。」
・・・・・・。もうどこに突っ込みいれればいいのやら。
「こらー！二人だけでいちゃいちゃおしゃべりするなー！！」
「おお、これはこれはご無礼仕り！爺の不覚でした、申し訳ございませぬ。」
「言っておくが、爺さんといちゃつく気は無いし、ナンパ相手に子供を選ぶ趣味も無いからな？」
「お前のしゅみしゅこうなどきいておらぬ。わしはお前の名を問うておるのじゃ！
無いのか？なれば、わしが直々につけてやろう。」
「土霊蜘蛛だ、つちぐも。態々名前を考えんでいいから！」
急いで俺の名前…ではないだろうけど、自分を表わす名称を答える。でないと、ペット呼ばわりに次いでどんな名を付けられるのやら。

「そうか、ツチグモか。
よろしくな、ツチグモー！」
う……。
つい、名乗ってしまったが。これで土霊蜘蛛の俺がこの小娘のペットとなる契約が成された…のか？
そんな感じがする。

だから………術とか魔法ってのは嫌なんだ。



蜘蛛日記に登場する[姫様及びその関係者]は全て、魅月(447) PL様のオリキャラを拝借しております。故、実際の姫様達とは設定性格外見等々差異がありますよっと。

祝杯を右手に問う。

エンブリオに取り憑かれた蛙が、地面からのそのそと這い出てきた。
その正気を失った目は、猫に焦点を合わせる事さえしない。
……否。出来ないのだ！

鉱蛙の足が愉快な方向に曲がっているように見える……。
しかし苔坊の生理学的な配慮を一切合切無視した無茶な治癒能力によって、蛙の足は早くも再生に向かっている！
立ち上がった蛙は再び貴方に襲いかかるだろう！
この狂った蛙の脅威から逃れるためには、早く逃げるか、凶暴化の元凶である苔坊を叩かなければならない！

という目で鴨さんをじーっと見つめます。

という目をして包丁片手に猫さんをにらんでいます。

という目でまな板の上の葱を見つめます。

やや洩れ出している怒気を感じるが、無事な様子の黒猫さんを見て毛玉兎はほっとしている。

先程飛んでいった葱でも探しているのだろうか。
周囲をきょろきょろ見渡しながら歩み去ろうとする黒猫さんを後ろから見送っている。
……と、毛玉兎の見えない背後から水音と微妙に生臭い匂いがして振り返る。

振り向いた先に、水辺へ汚物の汚れを洗いに行ったきりすっかり忘れ去られていた
妖精２匹のぐったりした姿があった。
匂いは汚れを落としたおかげで大分軽くなったみたいだがそれでも結構匂う。

周囲を隈なく見渡し警戒するリューンに小さく縮こまってガクブルと震えるスィー。
どうやら彼女達は随分と黒猫さんがトラウマになってしまっているご様子。

震える２匹を毛玉兎が宥める。しかし生臭い…。
この分だと匂いに気付いてひょっこり戻ってくるんじゃないかな。
と、思う毛玉兎なのであった。

ふくらはぎへの衝撃に驚いて変な声を上げる。

そしてそのまま凍り付…、

明らかに態度を変えて黒猫の頭をなでる。

黒猫のくわえているものを受け取ろうと手を差し出した。