左右と後方はひたすら白く、目の前はひたすら黒い。
自然に前に足が動く。

視界の左端で、黒い塊がもぞもぞと動いたように見えた。
今度は視界の右手側が、白くなる。

その向こうが、黒くなる。
白くなり、黒くなる。

繰り返すうち、また足が動く。
すると、奥から黒い塊がゆっくり、ゆっくりと近づいて


視界が、黒く染まる。

ケットシーを顔から雑に引き離し、サラマンダーを顔からゆっくりと剥がすと、
タンポポ荘の自室の窓から、早朝の風が流れこんでくるのを感じた。

先程の夢については、先日の一件でだいたい推理できる。「はみだしたエンブリオ」の仕業か。
白と黒が交互に動くといえばチェスだ。自らをチェスの駒に例えたのだろう。
つまり、今回また無意識に契約したエンブリオは、おそらく昨日戦った・・・似非忍者？
いや、奴はそもそも普通の人間だったはずだから、それはありえない。

こころのなかを覗いてみる。赤と金色のイメージに、黒い毛玉のイメージ。
そのさらに奥だろうか。土の色をしたカードが見える。

茶色く、鈍く光るルークの駒の絵柄が見えた。

ナチュラルに割り込んでくるケット・シー。
ぷんすかと飛び回るサラマンダーをよそに、ケット・シーが続ける。

勝手なことをしれっと宣う。いい性格をしている。
ふとサラマンダーを見ると、今にもケット・シーに掴みかからんという勢いにまで暖まっている。

そういえば、１つ試してみたい事があったのだ。

その一声を待ってましたとばかりに、サラマンダーは小さい体を大の字に広げ・・・

両手を突き出したと思ったら、その両手から、契約者である俺を介さずに
直接「ファイアブラスト」が放たれた。

ケット・シーが一瞬で黒焦げになり、カードになり、俺の中へと戻ってくる。

ここまでやれとは言ってない。

エンブリオの自律行動。非常に強力な力を持ったエンブリオは、
契約者に大きな力を貸すだけでなく、
戦闘に直接参戦することまでも出来るようになるそうだ。

慌てて火を消す。タンポポ荘を火事にするわけにはいかない。
しかし、なるほど。そりゃあ「俺のほとんど」を使っても「まだ狭い」わけだ。
どうやら俺は、いきなりとんでもなく強力なエンブリオと契約してしまっていたらしい。

ふわふわ浮きながら、サラマンダーが続ける。

そう言って、胸元にぽむっと飛び込んでくる。好きと言われて照れる暇もなく次の瞬間、

サラマンダーが胸元にしがみついたまま、上目遣いでウル目を投げかける。
そこは流れ的にチェス盤じゃないのかとツッコミを入れても、じーっと見つめてくる。

チェス盤で思い出した。ゴレムの事はどうすればいいだろうか。
無意識どころか自分の意思とはあまり関係なく契約したとはいえ、
やはりそれなりの待遇はしてやりたいところだが・・・

・・・すまん、ゴレムよ。お前の場所についても、待ってもらう事になりそうだ。
申し訳ない気持ちで意識を向けると、ルークの駒は「楽しみに待っている」と
態度で示すかのように、鈍く光りながらじっと佇んでいた。

アルミ・カーンの頭の缶を無理矢理こじ開ける！

サラマンダーが興味を示し、ふよふよと火の粉を散らしながらニスイへと近寄る。

ニスイとアムフェイの静止も虚しく、

しめやかに爆発四散。

おぼろげな影がゆらめく。