たとえ傷つき力尽きたとしても、倒れた頭の先に道は続いている。

刀折れ、矢尽き、心萎える事もあるだろう。

だが、人生とは縄の様なものであると人は言う。

撚り合わさった紐と紐とが、捻じられ、絡まり、寄り添いながらも続いてゆくのだと。

良き事も悪しき事も、二重の螺旋の如く現れるのだ。

辛き事の後には幸多からんと一心に願うものである。


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しん、と静まり返る深緑の森を朝の日差しが照らし出してゆく。

時折鬱蒼とした木々の隙間から日の光が差し込んで眩い柱の姿を描く。

一際強い風が森の中を駆け抜けた。

若い樹木を撓らせ葉を幾枚かもぎ取ってゆくが、森は動かない。


俺はあれから一晩中樹木の精霊と戦い続けていた。

木精の攻撃力は低いが再生力は桁違いに高い。

樹木と一体と化した木精は大地の霊力＜オド＞を受け傷を塞ぎ活力とする。

若木が瞬く間に大木へと成長する程の速度で活性化するその様は驚異的なものだった。

折れた枝も抉れた幹も吹き散った葉も一瞬で再生した。

それに対する俺は火力が足りなかった。

霊力を吸い上げる木の根を吹き飛ばす火力も、樹木を一撃で薙ぎ倒す威力も持っていなかった。

力を十全に発揮出来る精霊の領域で戦うにはあまりに分が悪かった。


じりじりと俺の魔力＜マナ＞が削られてゆく。

もう幾度目かになる舌打ちをして荒い息を沈め飛竜の一息を放つ。

暴風が樹皮を裂き枝葉を千切り幹に亀裂を走らせる。

しかし、まるで水が沁み込むかの様に大地の霊力が覆うと一息の間に元通りとなった。

木の枝が伸びて鞭の様に撓り襲い掛かってくる。

防ぎきれない枝が肌を切り裂き打ち付け、じわりじわりと俺の体力が削られてゆく。

・・・もう打つ手無しだ。

俺は地面に転がっている白虎に腰掛けた。

構えていた杖を下ろし木の精へと呼びかける———降参だ、と。


樹木から産み落とされるかの様に木精が出て来た。

俺に掛けられた言葉は一つ。

『進む道に迷いはありませんか？』

俺は答えた。

「 己が歩む道は風と共にあり」

その答えに満足したのかは分からないが、木精はゆっくりと頷くと一言を残して去って行った。

腰掛けた白虎の上で座り直して言葉の意味を咀嚼し考える———この腰掛けは良い、大きさも弾力も程よく温かい。

俺もまた森に誘われし者であり、いつかはその恩恵を受ける事となる。

・・・・・謎掛けでは無く、ただ受け入れられただけと考えても良いのだろうか。

白虎とのついでに戦う事になってしまったが、やはり精霊というものは強く深い存在だと認識させられた。


俺は暫くの間物思いに耽っていたが頭を振ってから杖をつき立ち上がる。

いつの間にか俺の傍で風霊がふわりふわりと漂っていた。

少し前から姿を現し出したこの精霊は俺の問いに答える事は無い。

俺は歩き出し森の奥へと歩みを進めた。

後に残されたのは地面に横たわった白虎だけ。


細く穏やかな風が森の中を走り抜けてゆく。



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何処かで見覚えのある姿が目に映った。

何かの見間違いかと思ったが、あの特徴的な橙色のマントはあの銀髪の少女ユーノのものだろう。

俺がこの＜一揆＞という行為に参加した初めの頃、一時的に組んで水辺を散策した覚えがある。

何かを探している彼女以外にも二人の姿があった。

兎の形をした何かをお供にした大槌の少女、そして花と音楽の少女。

兄貴分であるあの飄々とした青年の姿が見当たらないが少し離れた場所にでも居るのだろう。

ふとユーノと目が合った。

ぱあっと顔を輝かせてこちらへと走って来た。

そして転んだ。


ユーノ達は白虎と契約する為に森に入ったのだと言う。

そこで手分けして一緒に探して欲しいとお願いされた。

俺は特に用事も無かったので承諾する———先程の場所に戻ればまだ横たわって居るだろうか。

自己紹介や合図等の相談もそこそこに探しに別れ出た。

俺は心当たりのあった大木の所へと向かった。

しかし、そこにはもう何も残って居なかった。

あの樹木の精霊の気配も無い。

諦めて別の場所を探そうとしたその時、木と木がぶつかり合った様な低く響き渡る音が聞こえた。

耳を澄まし大体の方角と距離を定め、俺は走り出した。


そこには林檎男が居た。

巨大な林檎頭から人間の様な身体が生え煙草を銜えてこちら側を睨み付けている。

それが二体。

この林檎共は森と調和せず、異様な光景を感じさせる・・・・・それと煙草の火を消せ。

そしてそいつ等を率いる見覚えのある白虎。

こいつは少し前に俺が叩きのめした奴だろう。

合図を聞きつけたのか、先程の顔合わせをした少女達が集って来た。

夜通し起きていた所為か少し身体に疲れが残っているが問題は無い。

このまま蹴散らしてユーノ達の契約を済ませるだけだ。


ふと、木の香る風を感じたので俺は白虎と林檎頭達の後ろの大木に目をやった。

そこには風の導きか、あの木精が神妙な表情をして佇んでいた。

あの林檎頭共の煙草の火を咎めに来ただけ、という風でも無い。

まぁ、何にせよ今は目の前のこいつ等を片付けるだけだ。

俺は軽く肩と首を回し、杖を翳しスペルの詠唱を開始した。

複数並べられた言葉を聞くと、一つの言葉に反応したのかきょとんとした顔をする。