クリス(※１)から教えて貰った事を繰り返し、繰り返し書いてやっとマトモ（かもしれない）手紙が出来た
これで良いのか、悪いのか　自分は判断を下すことは出来ない
なんせ自分は文字と言うのもさっぱり分からなかったのだ　良い悪いもあったもんじゃない

教えてもらってから後、しばらく日記は書かずひたすら字を別のモノにかいていた
ノームがいたから言葉と字を結びつけるのは割と何とかなった
……起きている時は全く会話が出来なかったのが練習する身にとって辛かったのはナイショである
そんな感じでノームから教えてもらった言葉を文字にして、人並み（と言えるのかは不明だが）くらいに色んな言葉を書けるようになった
なんだけど……

そう、話し言葉は今まで通り繋がりの無いものなのだ
話そうとするとどう発音すればいいのか分からなくなり、黙ってしまう
ノームにそのことを話してみたら

という返答が帰ってきた
良く考えたら植物って言っても多種多様だし、それくらいは気にしなくてもいっか

それにしても、自分と言う存在が生まれてから日と月が昇って降りてを繰り返して20回くらいになる
元々木だった自分からすればなんてことのない、短い間である
だけど、その間に自分にたくさんたくさん色んな事があった

シンオウと誰かが呼んでいた人がネクターを奪った事
それに対して誰かが立ち上がり、その人と同じことを思った人が『イッキ』を始めたこと
ノームの言う『ナカマ』という存在と出会った事
シンオウにも『ナカマ』がいる事
植物も何もない場所があるって知った事
なぜか分からないけど、『イッキ』をしてる人たちが戦う事
そしてやっぱり一番強烈だったことは…………

思い出して、体が切り刻まれるような、そんな感じを思い出してしまった
いつのころだろう、チハヤ（※２）が少しみんなと離れて行動していた時にある人たち（※３）と出会った
その人たちは、少なくとも今まで出会ったニンゲンという存在とは何かが違った
暗く、冷たく、乾いた何か　その第一印象は植物である自分には恐怖でしかなかった
クリスやアル（※４）と一緒に戦ったけど、結局負けて持ち物を奪われてしまった
あの時の記憶は、あまり思い出したくない

強くならなきゃ、刈られてしまう　だからこそ自分は強くならなきゃいけない
自分を守るため　そして一緒にいてくれる皆を守るため
それが大切な事だって、誰かが言っていた気がするから

クリスはまとっている少女の殻を捨て、概念としての姿をあらわにする。
この状態のクリスを、すでにモクは何度も目にしてきた。

モクは目の前の数列の集合体のわずかな「ゆらめき」に、クリスの迷いを見た気がした。

そこまで「語る」と、目の前のクリスがもとの少女の姿に戻る。

ふ、と軽い笑みを見せた後、クリスの表情が引き締まる。

チュン、と鳴く。
そしてモクラが差し出した手に、ちょんちょん　と跳ねて行って　その手のひらに乗った。

たしたしと何度か片足を羽毛から出したり引っこめたりしている。
両足で握ったら爪が刺さらないかと、とりあえず心配してるようだ。

戦闘を終えた後のあなたに、一緒にパーティを組んだ少年が
話しかけてきた。

笑いながらそう言うと、少年は急に真顔になった。

あなたの頭の葉を指さす。