ここはアクアパレス……。
前回の進攻では、道を塞ぐラケルトにいいようにやられてしまった。
あくまで様子見と、本気で挑まなかった部分はあったが、それにしても相手がかなりの強敵であることはわかった。
それだけに、五体満足で退却できたのは僥倖だった。

……ラケルト自身に、追うつもりがなかったというのも大きいのだが。


今は通信用のフェアリーを使い、社長と通話している。
無事に龍討伐を果たし、それを祝うことも無く、すぐに別行動へ移っている。

そう、討伐は過程に過ぎないのだ。
目的はPSを得ること、ただひとつ。

新たな道を切り開くことも、新王の撃破も、眼中にはない。
そんなものは、それこそ英雄にでもやらせればいいのだから。

もう、いつ王の元に一揆衆がたどり着いてもおかしくはない。
残された時間は限られている。

だからこそ、ニスイたちの行動は、社長が緻密に計算し最適な道順を示している。
ただ、それに従えばいい。
それが最適解なのだから。

自分にできることがあるとすれば、社長の出す指示を確実に遂行してみせることだ。
リスクのある道もくぐらなければならない。

今回も、相応のリスクを背負ってここに来た。
すぐ近くで進攻していた者が、何者かに襲われる音を聞いた。
もしこちらが襲われていたら……。

ニスイは楽観的に社長に告げてから通信を切り、今日の戦闘への準備へととりかかる。

手が、わずかに震えている。
汗も止まらない。


それでも、失敗するわけにはいかない。
この作戦の準備のために犠牲にした一匹を、無駄にしないために。