賽は投げられた。

準備をしていたものが一斉に動き出し、それが形となっていく

「騎士団結成式典、準備完了！」
「ヴァゴニアの領主より祝辞が届きました！」
「毛皮職人の組合からマント一式、納入！」
「酒保商人連盟より、騎士団との提携を受け入れると連絡！　販路の護衛を任せるとの事です！」
「連盟から代表としてヴィヴァンディエール商会長が式典に出席との事」
「レイエームの領主から、騎士団に義勇兵を参加させると通達！」

報告が飛び交う中、それを寡黙に捌くものが一人。騎士団事務総監を務めるエデッサ男爵だ。
元々は中堅官僚であったが、一揆の勃発と同時に王城を脱出。
アイサの要請で騎士団結成の為に裏から手を回していた。

「順調ですね男爵」
「そうでもない。予想よりも資金が集まらん。大分暫定議会にもっていかれたな」

男爵は苦い顔をしながらコーヒーを啜る。
グレンダの説得に少し手間をかけすぎたのかもしれない。
だが、今からでも間に合う。

王の庇護を受けていた職人たち、そして流通経路を握る酒保商人を仲間に引き入れる事が出来た。
特に酒保商人たちの存在が大きい。彼らはいざとなれば軍隊の補給を代行する事が出来る。
そう、騎士団はその気になれば軍事行動を起こせる能力を手に入れた事になる。

「もっとも、まだものの役にはたたんがね。一揆参加者に比べれば塵芥のような連中だ」
「それでも纏まった軍事力を動かせるのは大きいですよ」

まずは商隊の護衛、盗賊の討伐、治安の維持。
そして経験を積んだ後は——

「資金の事ならばご心配なくー—非道な領主の２，３人も殺せば、多少は潤うはずですから〜」
「怖いこわい。私の知り合いは見逃してやってくれよ」

エデッサ男爵は苦笑しながら書類仕事へと戻る。
アイサは窓辺で、眼下に整列する「騎士団」を眺めた。


（……騙すような形になりましたが、許してくださいねグレンダ〜）

（私は理想の為ならば、手段を選ぶつもりはありませんので〜）



後日、グレンダの元に騎士団75人分の忠誠宣誓書が届き、彼女を驚かせる事になる。

そこまで自分も甘くないし、夢を見ているわけではないと苦笑して。
アムルイは指摘された問題に対して、こう答えた。

長く平和だったこの王国だからこそ、外敵の恐怖を思い出させる。
その緊張感が、ある程度は国家間の争いを抑止するだろう。
少しばかり国力の高い国が生まれても、他の全てを敵に回すのは難しい。

だからこの問題について論じるのはここまでだ。
彼女は一度目を伏せ、静かに口を開いた。

故に宿題でも何でもないと、彼女は笑った。

だから止めないし、争わない。
仕方なく衝突することがあっても、それはその時だ。
尊重すべきは自分一人の理想ではなく、民の自由と意思である。

そう言いながら。
彼女は最後に悪戯っぽく笑って、こう言った。