三階も二階と同じ景色が続く——という話だけれど私たちは二階に行ったことがない。
　既にここの時間で四十日の間探索を続けているけれど芳しい成果は上がってないようで。城内に進入することは容易、手摺や食器、ステンドグラスまで一揆勢たちは持って行ってるのに。
　それでも一向に妨害がないのは不思議なところ。所々に強力な守り人がいるには違いないけれど猛攻というほどでもなく。
　つまるところただただ歩を進めるだけの日々の繰り返しだった。

「これは当たりなの」
「お気に召されたなら何よりです」

　ひっそりと抜けだしては気になるお店に向かう毎日。文化レベルがそこそこの割に食に関してはレベルが高い。エンブリオ契約で高度な機械でやることを肩代わりしてるんだろう。
　昨日はブラウニーで、今日はクリームチーズをたっぷり使った焼きプリン。
　プリンという感じはそこまでしない、どっちかというとムースかレアチーズケーキに近いかも。酸味と甘味のバランスがよく口当たりも滑らか。強いていうなら少し重いかもしれないけれど甘いもの好きなら関係ないと思う。
　はしたなくスプーンを咥えたまま一時の至福を味わった。
　そのまま視線を動かし、コノエが作った地図と但し書きの山を見る。明日のお店はおかず系でもいいかもしれない。
　甘辛く焼き上げた鶏、粉物、こだわりのお握り。汁物、刺し身の丼、天然魚を串に刺し塩を振って焼いただけの贅沢な焼き魚。
　全部食べ切るまでパラダイスが死ななければいいのだけれど。

ジタバタしたいのを堪え、上司の足の動きが止まるまで踏まれるがままになっている。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。