結論から述べると、呪いは成功した。

アヴシャケリィの生誕を手放しに喜んでいた民衆が次に抱いたものが不安だったからだ。
呪術を受けていない子供が、健康で文化的な生活を送れるのだろうかと。



これはボクにとって好都合だった。アヴシャケリィを呪術．色即是空で保護することに皆協力的になってくれた。

アヴシャケリィの１歳の誕生日の正午。
全国民に彼女への安寧の祈りを捧げてもらうことが実現した。

呪術は想いを力へ変える術。
約7200万人。世界単位の想いを呪術で換え、彼女に施す。

色即是空。時・場所・空間を問わず永遠であれと願を掛けた呪い。
最高位の呪は果たされ、アヴシャケリィは悠久の安息を得る
ボクは、家族を守ることが出来る






はずだった。


異変に気づいたのは数ヵ月後。
母似のアヴシャケリィの黒い髪が茶へと変色しはじめていたのである。

呪術はボクらの意図と解釈を越えていた。
願掛けの領域を逸し、譜面通りアヴシャケリィを永久不滅の存在へと転換していたのだ。
彼女の因子は回収され、やがて形而下で永遠の存在へと補完されていく。

色即是空は……人を神へ至らせる呪いだった。


解呪のため、ボクも流水の世界も奔走した。
だけど世界単位で掛けた呪いが溶けるはずもなかった。
覆水が盆にかえることなどない。
日々色素が薄くなるとともに
因子が回収されていくアヴシャケリィ。

やがて、
15年の月日が流れていた。


アヴシャケリィの髪は薄緑に。瞳は金に。
肌は景に溶けそうなほど、淡く白い。

時間がないのは明白だった。


この頃にはもはや他の呪術師はさじを投げ
国もボクたち親子が最期の時間を過ごせるよう
見守るだけになっていた。

彼女を救う手立ては…今も見つかっていない。

小声で胸と薬を押し付けてきます。