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ミリヤム・ヴォルシュケは迷い人である。
ここがどこだかわからない。
エンブリオを名乗るカエルとの意思の疎通が可能。なんだこれ。
勝手に契約を結ばれ、丸腰に見えたのだろう使いにくそうな大剣をくれた。
使ったこと無い武器は慣れるのが大変だと知っているのだろうか。


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一人で困惑していたところやさしそうな面立ちの少女が声をかけてくれたので会話を交わす。
これで精神的に落ち着くことが出来笑顔も浮かび、好意に甘えることにした。
この世界のこと、一揆のことを詳しく聞けたら少し悩んでしまうだろう。
今後の目的を踏まえ行動する必要があり、人狼病のあいつを探すためには占い師が必要である。
妙な能力が使えるこの世界ならそれもたやすいかもしれない。

人を探すこと、人狼病をくまなくつぶすこと。
この世界にせめてあの細菌を広めてはならないことだけは確実だ。


あー、人狼吊りたいなー。

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ミリヤム・ヴォルシュケは狩人である。
人狼という病を根絶やしにする使命を持つ一族に生まれ、
狩人である父に技術の全てを叩きこまれた一人前の狩人である。


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灰色の被毛の人狼を追いかけていた。
持っていたのはいつも使う対人狼用のナイフ、それと吊り紐。
それがあれば事足りるはずだった。

これがいつも通りの狩り、ならば。
張り巡らせた罠を巧妙にかいくぐり背を追いかけるだけになっても、
まだ焦燥するまではいつもの人狼だと思っていた。

にやりと笑みを浮かべる灰色から溢れる牙の白だけが鮮明に目に焼き付いた。
こちらの世界での記憶はそこまで、ここからは知らない世界が広がることになる。

あの人狼がどういう力を使ったのか、それとも別の何かが作用したのかは私にはわからないけれど
ともかく元の世界ではないところにふっとばされたということは理解できた。


何故ならカエル（に見える）エンブリオが喉を膨らまして話しかけてきたから。
意思の疎通まで図れた、ってことは少なくとも自分の知る世界ではありえなかったわけで。
しかもそのカエルをすんなり受け入れてしまっているのは、自分でもよくわからない。
人狼を取り逃がしたショックなのか、心細かったのか。

少なくとも一匹はこの世界にも人狼は居る、そいつを捕まえて吊るまでは私は元の世界に戻れなくもかまわない。


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ミリヤム・ヴォルシュケは妹である。
同じ父を持つ兄が一人、少し気は弱いが立派な狩人として存在した。
父同様に兄を慕い、技を磨き共に狩りに出て良き相棒になるはずだった。


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兄の腕が染まり、思考が崩れ人狼病に侵されるのを目の当たりにした。
二度目のことにミリヤムは絶望した。
そうしてはじめて一人で狩った人狼に、兄は堕ちた。
本来ならば生えていない牙、醜い色の尾、兄の面影はもうどこにも無くなった獣を前に、

涙は零れなかった。

ただ弱らせる為に刃を突きたて、血を流し、首に縄をかけ息の根を止める。
身体は作業をこなしそれは独り立ちできる狩人である証明となった。
閉ざされたミリヤムの心だけを置き去りにして。

すべての人狼病を世界から排除するために兄の尾を切り取って加工した。
たった一人の相棒の変わり果てた姿を思えば、新しい相棒など要らなかった。

また誰かを愛したらそこから病が広がってしまうような気がしたから。

成人してからは積極的に狩りに出た。
人狼の好むものを探し学び、罠を張り巡らせ陥れる。
それで何体も殺せた。

人狼病に侵されているにしては珍しい狼らしい毛色のあいつを追いかけ始めるまでは。


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ミリヤム・ヴォルシュケは少女である。
ごく普通の恋をする乙女だ。
相手を想い頬を染、眠れなくてはベッドで転がり、姿を見れただけで胸が高鳴る。
時に泣き、笑い、叫び、面白いくらい滑稽な乙女だ。


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相手が人狼病を発症させるまでは乙女でいられた。
幸いその牙にかかることなく駆けつけた狩人である父に助けられて事なきを得る。
ミリヤムが１２歳のことだった。
父が殺した人狼の最後のことはよく覚えていないけれど、
もうそれが好きだったあの人ではなくなってしまったことだけが
鮮明に脳裏に焼き付いた。

すれ違う。通り過ぎた金の色彩。その色が、自分の内の記憶を刺激する。

思わず話しかけてしまってから、しまった、と自分を叱りつけた。
『あの人』とは似ても似つかない女性に、何故自分は突然話しかけたりしているのか。
取り繕うように笑顔をつくってから、不自然にならないように話を繋げる。

言ってしまってからナンパのようだと思ったものの、言ってしまったものはしょうがない。
そういった意図は自分にはない。と示そうにもこのセリフでは、何を言っても逆効果だろう。
それ以上は何も言わず、彼女の反応を待った。