神が呪いと祝いを作った。
　神が痛みと癒やしを齎した。

　また少し目が霞む。
　とはいえ、以前のように酷く文字が見えないというワケじゃない。
　ただ申し訳ないけど、今日は早く休むことにした。

　明日はまた先日あった者と合流する予定だ。
　あんな美味しいものを紹介してくれたT田殿は、
　きっと素晴らしい人なんだろう、とは勝手に思っている。

　寝る前に最近契約した新しい隣人に話しかけると、
　意外にも流暢に話してくれた。
　人の姿を模るには模るが、他のエンブリオに気遣って動物の姿で居るらしい。

　生きることは殺すことだと獣の王はたどたどしい口調で告げた。
　言われてみれば、今まで口にしてきたのは何かしらの命だ。
　命に軽重はないが、あまり深刻に考えすぎるのも愚考だと諭された。

　けど、まだ割り切れない部分もあるし。
　あの世界に居続けたら、慣れるというより心が乾いてしまいそうだ。
　だから、この痛みは大事に胸の奥底に仕舞っておこうと思う。

　欠伸をすると、ちょっと口の端が痛い。

ナスルの返事を待たずして
そうだ、きっとそうだと目を泳がせ

いやいやと大袈裟に首と手を振り
刺青を凝視するナスルとの距離を微妙に気にしながら

ナスルに促され猫の鼻筋を慣れた手つきで撫ぜ

左掌を前に突き出し、右で拳を作り掌側を上にして肘を曲げ
それを右わき腹の横のあたりにぴたりと付けて

服の袖が「ばおっ」と風をはらんで、素早い突きが繰り出された。
放たれた拳は突く際に180度回転し今度は手の甲が上を向いている。

「あ、準備がわるくてすまねえ」と、その場に草木の刺繍が丁寧にあしらわれた絨毯を敷く。

それから手を差し出すナスルに満足そうに頷き、
ほかほかと湯気を立てている白米がこんもりと盛られ、その上にイナゴがわさわさ乗せられた茶碗と、
どこぞの職人が作ったような、鈍く黒光りをする質の良さそうな箸を手渡すと、
ナスルの横によいせ、と座る。

と言いつつ、今度はグラスを取り出し、ポットから半透明の綺麗な黄緑色の液体を注ぐ。
グラスがすぐ結露するところを見ると、ひんやりと冷たいようだ。
「よかったら緑茶もどーぞ」とぶっきらぼうな口調とともに目の前に差し出されたそれからは、なんだか和風っぽい良い香りが立ち込める。

なんか一瞬見られた気がしたけど、小首を傾げて特に気にしてないようだ。

しかしそれは適度な運動というには結構ハードだった！

そう言って、三角に尖ったフワフワ狐耳を、左右にゆらりんゆらりんさせる。

ナスルの言葉を聞いて、ネイベールは吹き出した。

サラマンダーの背中をつるつる撫でながら、
ネイベールは顔を上げた。

サラマンダーを撫でていた手をナスルへ伸ばす。

そう言うと、ネイベールはナスルの手を 強く固く握り締めた。

にやりと口の端を上げて答える。

まっすぐ、愚直なまでにまっすぐなまなざしを受けたとき、

盲目であるはずのリラの視界にはひとつの「絵」が映った。

はじめに見えたのは、黒い羽。

次に「視得た」のは、嘆きの色。

理解した瞬間、リラはその色に打ちのめされ顔が青ざめるものの、

同時に背後からふわりとしたものに包まれたことに気づく。

いつもの口調ながら、その声色はひどく静かにナスルへ向けられていた。

普段は見せない、有無を言わさない水霊の態度に、
リラは先ほどまで得ていた暗い感情から覚め始めていた。

リラはさきほどのナスルの態度と言葉を思い出して、
やや困ったような表情となって言葉を探し出す。

その彼女を後ろから抱きしめながら水霊が口を開いた。

唐突に素っ頓狂な声で水霊は自己主張をした。
そう、それはリラとナスルが本来向かっていた場所、街の食堂の方角へ。

それを聞いて、二人を顔を合わせて苦笑したのだった。

　一層と拳を握り、ナスルは舌なめずりもして眼前の敵を睨めつけた。
　

　外套を翻したナスルは、軽妙に笑いながら拳を構える。
　

神々しくも禍々しい。清らかながら暴力的。
目に見えるほどの魔力が二人を包み——