男は風精を従え、崖から大地を見下ろした。

未だ、何が何やらわからぬ。
男は昨日未明、女のおっぱいを揉んだ。柔らかかった。
しかし女は激怒した。無許可だったのがいけなかったのだろう。
なので正面から「揉ませてください！」と言って正々堂々揉んだ。柔らかかった。
女はもっと激怒した。なぜだ。
男が覚えているのは女の放ったきれいな回し蹴りと、それが自分のこめかみに突き刺さる瞬間。それと蹴りの途中で見えた彼女の下着であった。クリーム色。それを最後に男の視界はブラックアウト。
次に目覚めた時には見慣れぬナマモノ、つまりそこな風精が男の髪をソフトクリームのようにモリモリ盛っている姿が見えたのだ。
宙吊りと凸ピンでいいかな、とだけ思った。

ここは男のいた世界ではない。そのことについて少し怖いと思う。知らないことは怖いのだ。
男は自分の頭があまりよろしい部類に含まれないことは自分が一番良くわかっている。
自分の頭でするりと把握できるほど単純ではないことも。

何故自分はここにいるのだ。
何故自分はここに来たのだ。

分からないのは怖い。

ただ、

まだ見ぬ世界がある。あるのだ。
そこにはまだ知らぬ「楽しさ」が彼を待っているであろう。
きっと面白いものが見れるのだろう。

わくわくしてきた。

そう好奇心。好奇心こそが彼の心臓に流れる血潮の成分の最たるものだ。
未知の世界への恐怖、待っているであろう障害への不安。彼に赤い血が流れている限り、それ『如き』が彼の魂を止める楔にはなりえないのだ。

男は子供の様に目を輝かせて崖から飛び降りた。
溢れる好奇心を胸に秘めたまま。
















　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　*　　*　　*

















で、ノリで飛び降りたが……無事で済むかな？