メルンテーゼに流れ着き、流されるままに一揆に参加して一週間が過ぎた。
　この世界での力の解放率はあまり高くないようで、エンブリオを通して、今までに比べたらほんの僅かな力しか扱えない。
　そのおかげで加減がわからず、何度か敵に倒されかけたりもした。

「実際、さっきも燃料切れ起こして死にかけたし」
『……珍しい、から、面白かった』
「他人事みたいによく言うよ、全く」

　長い時を共に生きてきた付き人は、此度の世界ではエンブリオに姿を変えた。下半身を靄のようにたなびかせた小さなテルテル坊主の形になっても、いつでも眉を寄せた不機嫌そうな表情は変わらない。ひとことひとことを区切る特徴的な低い声で紡がれる淡々とした言葉にむすりとしたものの、次の瞬間には表情が緩む。

「ま、それがロークか」
『死んだら、迎えには、行ってやる』
「あ　り　が　と　ね」

　嫌味には嫌味で返して、周囲を見渡す。
　満天の星空を金粉の如くぶちまけたような小川のほとりで、ふう、と息をついた。

「まあ、道連れもできたし」
『ひとり、よりかは、「記憶」、を、得られる、だろうな』

　自身の力の源流である『記憶』を、より多く刻むこと。それが彼の生き続ける目的であり、すべて。
　それが彼の感情を揺さぶるものであればあるほど、その力は強くなる。
　瓦礫の如く、積み上げられ高められていく力の、その、先は。

「……」
『珍しく、感傷的、だな』
「そんなもの、すり減って無くなってくれたほうがありがたいけど。……なくなったらダメか」
『……俺は、お前が、どうしたい、か、察している、が』

　唐突に落とされたロークの呟きで、話が切り替わる。彼の一瞬の困惑に畳みかけるように、無口なエンブリオが言葉を重ねて。

『俺は、納得、しない。……ここで、「仲間」を、つくる、なら、尚更』
「……だろうね」

　紅の瞳を、そっと伏せた。

不躾だったか、と慌てて付け加え。

くすりと笑い、そんなことを言って。
君はメルンテーゼの人？　と訊ねる。

僅かに苦笑。取り繕うように笑顔を浮かべて、言った。

男はふやけたようなだらしのない笑みを浮かべている。

そこでふと、ジェフは銀髪の男性の顔を凝視した。

ジェフはもはや決定事項、とばかりに握手を求めている……
断るも断らないも君の自由だ。